日本人商工会議所、中銀に為替管理規則の是正を要望

(マレーシア)

クアラルンプール発

2017年04月18日

 マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)は3月29日、マレーシア中央銀行に対して、2016年12月に導入した為替管理規則を是正するよう申し入れた。日系企業では、新規則に対応するための追加コストや為替リスクが発生しており、JACTIMはマレーシアへの投資阻害要因になっていると指摘した。これに対して、中銀は為替の安定に新規則は有効として、引き続き実施していくとする一方、個別相談に応じるとして窓口を明らかにした。

77%の日系企業が「影響あり」と回答

中銀が2016年12月に導入した新為替管理規則(2016年12月12日記事参照)について、JACTIMとジェトロが実施したアンケート調査(注)によると、77.0%の日系企業が規則の影響を受けたと回答した。

新規則は主として、(1)輸出企業が輸出代金を外貨で受け取る場合、その75%以上をリンギへ両替することを義務付け、(2)国内取引の決済にリンギの使用が義務化された、(3)実際に需要があるか確認できない為替ヘッジ取引の金額が1取引銀行当たり上限600万リンギ(約1億5,000万円、1リンギ=約25円)に制限されるとともに、6ヵ月を超える先物為替予約は行えないこととなった。

アンケートでこれら3項目のうち特に影響が大きいものを聞いたところ、「リンギへの両替義務付け」「国内取引におけるリンギ使用の義務化」がともに46.3%だった。

具体的な影響に関する質問では、「余分な追加オペレーションの発生」が71.6%と最も多かった(図参照)。新たな書類作成、人員の手当や中銀との連絡などに経営資源を割り当てる必要に迫られたことが背景にあるようだ。2番目は「為替リスクを負担」(61.2%)だった。輸入企業が支払いを米ドルで行う場合、輸出で得た収益をリンギに交換しなければならず、為替リスクが発生することがその理由のようだ。3番目は「キャッシュフローに見合わない両替強制で、コストや管理負荷が増大」(56.7%)だった。

図 新為替管理規則による具体的影響(n = 67、複数回答可)

投資誘致策に逆行すると指摘

JACTIMは、最近、日本からマレーシアへの直接投資が減少している理由として、「労働」面とともに新為替管理規則を含む「金融」面を挙げている。新規則が日系企業に好ましくない影響を与えているため、マレーシア政府に対しても新規則を凍結し、産業界と対話の場を設けるとともに、新たな政策を立案するよう要請した。

JACTIMは「新規則の運用が続ければ、輸出型製造業の競争力に深刻な影響を及ぼし企業経営を悪化させる。また、為替リスクの顕在化や規則への対応に伴う追加コストの発生は、マレーシア経済の信頼性を損ないかねない」と懸念を示した。また、企業は資金の引き揚げやマレーシアでの操業停止を考慮せざるを得ない可能性にも言及するとともに、「新規則はマレーシア投資開発庁(MIDA)が推進する統括拠点誘致の動きにも逆行する政策だ」と指摘した。

中銀は個別相談に応じる姿勢示す

JACTIMの要請に対して、中銀のアドナン・ザイラニ総裁補は「新規則導入の背景には、輸出企業が得た外貨がリンギに交換されない事例が多く、資金の流出が続く事態を是正することにある」とした。目的はあくまで、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から懸け離れた為替水準を是正することにある点を強調した上で、今回の規則は目的にかない、有効に機能しており、引き続き長期的な視点で実施していくとした。

総裁補は、新規則が短期的には日系企業にデメリットをもたらすことを認めつつも、長期的には為替が安定し、企業もメリットを享受できるとして、規則の必要性に対して理解を求めた。またデメリットについては、JACTIMの要望を受けるかたちで、日系企業の立場に理解を示し、個別事例ごとに相談に応じるとした。直接連絡先は、中銀の外国為替管理部門(+603-2692-6427/+603-2698-8044)。

(注)JACTIM普通会員企業577社に対して、2017年2月6~10日の間に実施し、87社から回答を得た(回答率15.1%)。

(新田浩之)

(マレーシア)

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