中銀がリンギへの両替を突如義務付け-為替管理制度を変更、輸出代金の75%をリンギに

(マレーシア)

クアラルンプール発

2016年12月12日

 マレーシア中央銀行は12月2日、外国通貨の円滑な流通を図る目的で、為替管理制度の変更を突如発表した。本制度により、輸出企業は輸出代金の最低75%をリンギに両替しなければならない。仕入れや販売を外貨で行ってきた輸出型企業への影響は大きく、産業界からはマレーシアの輸出拠点としての意義が揺らぎかねないとの声もある。強引な政策導入の背景には、急落するリンギ安を食い止めたいという焦りがありそうだ。

<リンギ転換後の口座の金利は3.25%>

 今回の中銀の外国為替管理政策(FEAは、以下の3つに大別される。

 

1)輸出企業は輸出代金の75%をリンギに両替しなければならない。

2)国内で財・サービスの取引を行う場合の決済通貨はリンギ建てとすることが要求される。

3)実需確認できない為替リスクヘッジ取引の金額は1取引銀行当たり上限600万リンギ(約15,600万円、1リンギ=約26円)に制限されるとともに、先物為替予約は6ヵ月を超えては行えない。

 

 特に進出企業に影響が大きい制度が(1)の輸出代金の受け取り制限だ。対象は財の輸出でサービスは対象外となっている。輸出企業は25%まで外貨で持つことが可能だが、残りの75%はリンギに両替しなければならない。外貨は「貿易用外貨口座(Trade Foreign Currency Account)」で管理されることになる(図1参照)。用途は輸入代金の支払いや外貨借り入れの返済などに限定される。それ以外の用途の外貨は「投資用外貨口座(Investment Foreign Currency Account)」に置かれる。

 

 一方、リンギに両替した輸出代金は銀行が提供する特別預金ファシリティー(Special Deposit Facility)口座に入金する。口座内の資金は年3.25%の金利が付与される。この点、同口座のある銀行は等しく3.25%の金利になる。資金の使途は特に制限されない。今回のリンギへの両替義務は2016125日以降の輸出代金受け取り時に適用され、各企業が保有している既存の外貨に対しては適用されない。

図1 輸出で得た外貨の流れ(輸出代金100万ドルの場合)

<輸出拠点としての位置付けに疑問符>

 中銀は「今回の外貨両替義務が効果的なリスク管理やオンショア市場における継続的な外貨の流動性につながる」と述べた。中銀は、国内で外貨を入手することが難しくなっているために、本制度を導入することで、経済活動が円滑化するという立場だ。しかし、産業界からは、マレーシア製造業者連盟(FMM)のリム・ウィーチャイ会長が「この措置は輸出を阻害するものであり、投資家がマレーシアから資金を引き揚げることにつながる」(「エッジ・フィナンシャル・デイリー」紙126日)といった反発の声も聞こえる。

 

 日系企業も猶予期間のない突然の政策変更に戸惑いを隠せない。マレーシアを輸出拠点として進出してきた企業、中でも仕入れや販売にドル取引を行っている企業は、輸出代金で受け取ったドルをリンギに両替し、輸入部材などの仕入れ決済の際には、再度ドルに両替を行わなければならず、企業に不要なコストを課すことになる。輸出拠点としての魅力を理由にマレーシアに進出してきた日系企業にとっては、同国での事業存続意義すら議論に上がりかねないとする声もある。

 

<急速に進むリンギ安に危機意識>

 各種報道をみても、中銀は明確には言及していないが、今回の措置でリンギ安に歯止めをかけたい意向だ。今回の新政策導入に先立つ1116日、中銀はオフショア市場での為替リスクヘッジ手段として使われるノン・デリバラブル・フォワード(NDF)を違法とする警告を出すなど、11月以降、急速に進むリンギ安に神経質になっていた。中銀はリンギの安定化を目指すためにリンギ買いの為替介入も実施している。1118日時点で983億ドルあった外貨準備高は1130日には964億ドルに減少した。それだけに、輸入企業が多いマレーシア華人商工会議所(ACCCIM)などは今回の新政策に好意的だ(「スター」紙126日)。

 

 リンギの下落は11月の米国大統領選挙以降に急速に進んだ(図2参照)。最近は相関性が高い原油価格と通貨が反対方向に動いている。リンギがアジアの新興・途上国通貨の中で最も売られている原因として、国債の40%以上を外国人投資家が保有する特異な状況下、外貨準備高の減少、経済成長の鈍化、そして政府系投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)をめぐる不透明な政治献金問題が複合的に絡み合っているとの見方が有力だ(チャンネル・ニュース・アジア123日)。経済問題に加えて、政治問題がリンギ安の背景にあるだけに、根本的な解決には時間がかかるとみられる。

図2  マレーシア・リンギの対ドル相場と原油価格の推移

(新田浩之)

(マレーシア)

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