フランス、経済安全保障政策強化の方針示す、警戒案件が5年で3倍に

(フランス)

パリ発

2026年09月29日

フランス経済・財務・産業・エネルギー・デジタル主権省は9月24日、初の「経済安全保障会議(Assises de la sécurité économique)」を開催し、経済安全保障政策の強化方針を打ち出した。背景には、外国企業による買収に伴う資本・株主構成上の問題や技術流出などを巡る警戒案件の急増がある。

同省企業総局(DGE)直轄の戦略情報・経済安全保障局(SISSE)が把握した「経済安全保障アラート」(注)は2026年に800件を超え、5年前の約300件から約3倍に増加した。政府は、地政学的緊張の高まりと検知能力の向上が背景にあるとしている。

警戒対象は大企業に限られない。防衛産業・技術基盤(BITD)では案件の約8割が中小・中堅企業に関連しており、スタートアップも重要な標的となっている。また、2025年の案件の半数以上はパリ首都圏以外で発生し、特に南東部のオーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏およびプロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏、南西部のオクシタニー地域圏で特に多くの案件が確認された。

脅威の形態も多様化している。外国資本による戦略的資産への出資・買収案件が依然として全体の半数以上を占める一方、海外での訴訟を利用した「ローフェア(Lawfare)」と呼ばれる法的手段による圧力、サイバー攻撃、風評工作、サプライチェーン操作、主要幹部の引き抜きなども増加している。関与する国も毎年約50カ国に及ぶという。

フランスは2019年、首相府付国防・国家安全保障総事務局(SGDSN)の長官を議長とする省庁横断組織「経済安全保障連絡委員会(COLISE)」を設置し、経済安全保障体制を構築した。実務面ではSISSEが中核となり、国内治安総局(DGSI)や国防保安情報局(DRSD)をはじめとする情報機関や地方当局と連携して重要企業や先端技術への脅威を把握し、経済安全保障アラートを管理する。全国の県知事を中心とした地域ネットワークも整備されており、2026年には地域圏および県レベルで約120の経済安全保障会合が開催される見通しだ。

政府は同会議において初めて「経済安全保障ドクトリン(基本指針)」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公表した。同指針では、外国投資や国際的な研究協力を通じて国内への投資や生産拠点の立地・回帰を促進する対外開放政策が、フランスの経済主権強化に資するとの考え方を示した。その上で、経済安全保障は例外的な政策手段と位置付け、戦略的資産に対する外国からの脅威が認められる場合に限定して適用すると明記。制度運用にあたっては、必要最小限の対応にとどめる「比例性」と、外国投資家を国籍によって差別しない「非差別性」の原則を重視するとしている。

一方で、将来の成長と競争力を支える先端技術や重要産業については保護を強化する方針も打ち出した。対象分野にはサイバーセキュリティー、人工知能(AI)、医療・ヘルスケア産業のほか、農業・食品産業の一部が含まれる。政府はこれらを重要分野と位置付け、重点的な保護対象とする方針を示した。こうした政策は、外国投資審査制度(IEF)や国家科学技術基盤保護制度(PPST)、重要インフラ事業者(OIV)制度などの枠組みを通じて実施される。

(注)経済安全保障アラートとは、国家安全保障、経済競争力、イノベーション能力、成長可能性へのリスクが認められた案件を指す。具体的には、外国企業による戦略的資産への出資・買収、株主活動を通じた経営への影響力行使のほか、サイバー攻撃や海外訴訟、不均衡な提携契約などを通じた知的財産や機微情報、戦略的ノウハウの取得や、設備の窃盗・破壊、風評被害などによる企業活動の不安定化などが挙げられる。

(山崎あき)

(フランス)

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