パタゴニアのアルゼンチン側で大規模AIデータセンター計画浮上

(アルゼンチン)

ブエノスアイレス発

2026年09月24日

アルゼンチンの民間総合エネルギー会社パンパ・エネルヒーア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、パタゴニア地域アルゼンチン側のネウケン州で最大500メガワット(MW)規模の人工知能(AI)データセンターの建設を検討している。9月7日付のロイターの報道によると、同社幹部は、同州のロマ・デ・ラタ発電所近郊に最大500MWの電力を消費するデータセンターを設置する構想を明らかにしたという。

2025年10月には米国のオープンAI(Open AI)もデータセンターの新設でアルゼンチンへの大規模投資を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている(注1)。相次ぐ大型案件の浮上により、同国はAI関連インフラ投資の新たな候補地として注目を集めている。

アルゼンチンのデータセンター市場は、他の中南米主要国と比較してもまだ発展途上にある。総合不動産サービス会社JLLのレポートによると、2025年時点のラテンアメリカのコロケーションデータセンター(注2)の既存IT負荷容量(注3)は約1.1ギガワットだった。国別ではブラジル(520MW)、メキシコ(268MW)、チリ(171MW)が先行する一方、アルゼンチンは45MWにとどまる。

パンパ・エネルヒーアとオープンAIの計画が実現すれば、現在の国内容量を大きく上回る大規模投資となる。

アルゼンチンがデータセンターの立地先として注目されている背景には、複数の要因がある。

まず、地理的優位性が挙げられる。パタゴニア地域のアルゼンチン側は広大な平地で人口密度も低く、大規模施設の建設用地を確保しやすい。冷涼な気候と豊富な水資源によりサーバー冷却コストの抑制も期待できる。

次に、豊富な資源だ。ネウケン州には世界最大級のシェール・ガス田である「バカ・ムエルタ」があり、天然ガスの大規模な増産が実行ないし計画されている。大規模データセンターは膨大な電力を必要とするため、電力源となる天然ガスへのアクセスが容易な点競争上優位となる。また、アルゼンチンでは複数の大型銅鉱山プロジェクトが開発段階にあり、今後の生産拡大が見込まれている。データセンターの建設や送配電網の整備、半導体関連設備には大量の銅が使用される。「精錬」というハードルはあるが、豊富な銅精鉱の存在は大きな利点となる。

さらに、制度面での後押しがあるのも注目される要因の1つだ。税制優遇や規制の安定性を提供する大規模投資奨励制度(RIGI、注4)に加え、RIGIの優遇措置を拡充するスーパーRIGI(注5)についても、アルゼンチン議会で審議されている。スーパーRIGIでは銅精錬やデータセンターの建設も対象業種に含まれている。

一方で、大規模データセンターの建設に向けては課題も少なくない。数百MW規模の施設を安定的に運営するためには、新たな送電設備や光ファイバー網など通信インフラの整備が必要となる。

また、米国ではデータセンターが地域の電力網に負荷を与え、水など環境への負荷や電気料金上昇を招くとの批判が高まっているとの指摘もある(注6)。アルゼンチンでは同様の反発はまだみられないが、パンパ・エネルヒーアのデータセンター計画地周辺には先住民マプチェ族の居住地域があり、同地域では以前にシェール・ガスの開発を巡りエネルギー企業との対立が発生したことがあった。今後、大規模データセンター建設案件が本格化した場合には、環境問題や地域住民とのあつれきが事業推進上の重要な論点となる可能性もある。

(注1)アルゼンチン企業サー・エナジー(Sur Energy)と提携し、最大500MW規模のクリーンエネルギーを利用したデータセンターを開発する意向表明書(LOI)に署名した。

(注2)企業が自社で所有するサーバーやネットワーク機器を設置するためのスペース(ラックや専用室など)を、外部の専門施設内で借りるサービス、またはその施設のこと。

(注3)IT負荷容量とは、データセンター内のサーバーやGPUなどIT機器に供給可能な電力容量を指す。データセンター市場では設備規模を示す代表的な指標として用いられる。

(注4)RIGIは鉱業、エネルギー、石油・天然ガス、インフラなど8つの分野で2億ドル以上の投資を実施する案件に対し、法人税や関税の減免、資本取引規制の例外措置などの恩典を30年間保証して与える制度。

(注5)従来のRIGI(投資額2億ドル超)を上回る、10億ドル以上の大型投資を対象とした新技術分野向けの優遇制度案。RIGIと比べ、法人所得税率が25%から15%へ引き下げられるほか、配当に対する課税制限期間の短縮や輸出関税の免除など、より手厚い優遇措置が盛り込まれている。

(注6)インターネット調査・データ分析会社のYouGovと「エコノミスト」誌の米国での世論調査によると、住宅価格の低下などを懸念し、回答者の約51%がデータセンターの建設に反対している。

(黒澤琴音)

(アルゼンチン)

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