改正・税務無罪推定法成立へ、ドルの「タンス預金」を金融システムに取り込む狙い
(アルゼンチン)
ブエノスアイレス発
2026年09月24日
アルゼンチン議会上院は9月17日の本会議で、税務無罪推定法II(注1)法案を賛成多数で可決した。下院は8月27日に通過しており、近くハビエル・ミレイ大統領の署名をもって成立する。2026年1月2日発効の税務無罪推定法(法律第27.799号)を一部改正したもの。
17日の本会議で報告した与党・自由前進(LLA)のブルーノ・オリベラ上院議員は、同法の目的は「国による制裁を恐れ、金融システム外で現金貯蓄していたアルゼンチン国民が、その資金を再び金融システムに戻せるようにすることだ」と説明。
ルイス・カプート経済相によると、「アルゼンチン中央銀行の推計では、アルゼンチン国民が持つ資産の約1,700億ドルがタンス預金(注2)など金融システム外で保有され、その額はドル建て銀行預金額の4倍以上に相当する」という(注3)。
同法は、いわばインフォーマルなかたちで保有されているドル現金を金融システムに取り込むことを狙ったもの。過去の脱税行為などを免責するものではないが、「無罪推定」の考えを適用することで納税者に申告を促し、ドルのタンス預金をフォーマル化させるものだ。
現地の各種報道によると、改正法のポイントはおよそ3つある。1つ目は、所得税の簡易申告制度の利用要件として設けられていた上限額の撤廃だ。改正前の法律では、年間所得10億ペソ(1億1,000万円、1ペソ=約0.11円)以下、資産総額100億ペソ以下という上限が設けられていた。上限額を撤廃し、高額所得者も簡易申告制度を利用できるようにした。
2つ目は、税務当局である徴税・税関管理庁(ARCA)が申告内容を否認する場合、ARCA側に「重大な不一致」を立証する責任を負わせた点だ。かつ、申告額と確定税額との間で少なくとも15%の差異が生じるケースを「重大な不一致」と定義した。つまり、ARCAが申告内容を覆すための要件をより厳しくした。
3つ目は、改正前の法律でもうたわれているものだが(第40条)、「正確性の推定」という概念が取り入れられた点だ。これは、納税者を信用し、申告された内容を「正しいものと推定する」という考え方だ。税務無罪推定法を説明したARCAのウェブページ
には、同法の狙いについて「これは脱税に恩赦を与えるものではないが、これまでわれわれが納税者に対し抱いていた有罪推定との考えを改めるものだ。これからは、税務当局が反証しない限りあなたは無実だ」と書かれている。
同法への評価について、当地の税務・会計会社Lisicki, Litvin & Abelovichのノエリア・ヒラルディ氏は、「同法は未申告のドル現金を正規の経済活動に取り込むことを検討している人々に対しては、大きな予見可能性を提供する」とし、よって「ドル現金の一部が正規のシステムに取り込まれる可能性はある」と肯定的に評価。一方、「全ての現金が銀行システムに戻るわけではなく、その動きが直ちに起こるとも思わない」と指摘、「申告が進むか否かは、同法が納税者に与える保証が将来も維持されると人々が認識するかどうかで決まる」としている(インフォバエ紙9月18日付)。
(注1)正式名称は「Ley de Inocencia Fiscal II」。直訳すると税務無罪法IIだが、納税者を無罪推定の原則で扱うことに主眼を置いた法律であるため、「税務無罪推定法II」とした。
(注2)カプート経済相は「マットレスの下のドル」と表現。
(注3)2026年7月に政府が同改正法案を発表した際、カプート経済相が各種メディアとのインタビューで発言。
(峯村直志)
(アルゼンチン)
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