米シンクタンクでUSMCA見直しを議論、不安定な状況が続く見通し
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2026年06月11日
米国のシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)は6月10日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の共同見直しをテーマにウェビナー
を開催した。
元米国通商代表部(USTR)高官のケリー・メイマン・ホック氏は、USMCA見直し(注1)におけるトランプ政権の目的について、「米国内の雇用と投資を増やし、北米サプライチェーンにおける米国産品の割合を高めること」だと指摘した。その上で、USTRが完成車に占める米国原産品比率を50%に引き上げるよう要請したとの報道に触れ、「ニアショアリングにとどまらず、可能な限りホームショアリングを進めることが目的だ」との見方を示した(注2)。また同氏は、中国部材の利用を制限することも目的の1つにあるとし、域内原産割合(RVC)だけでなく「資本の原産地」について議論すべきかも見直しの焦点の1つになると指摘した(注3)。
中国との関係について、メキシコ経済省の元通商担当次官であるフアン・カルロス・ベイカー氏は、米国が対中関税を引き上げた結果、中国の対メキシコ投資が拡大したと述べ、「単に関税を引き上げるだけでは中国を止められない」と指摘した。同氏は、中国の脅威に対抗する政策を考える時期にあると述べつつも、中国部材を利用することは北米の一部の産業の競争力維持に不可欠だとの見解も示した。
ホック氏はまた、米国産農産品の対中輸出が減少していることから、「カナダとメキシコは米国の地方経済にとってさらに重要な存在となった」と述べ、USMCA見直しでは農業なども含めた広範な課題へと議論の幅を広げるべきだと主張した(注4)。
今後の見直しのスケジュールについて、ベイカー氏は、米国が懸念を示す課題の解決に時間を要することなどから、「2026年中に結論が出ることはない。ましてや7月1日までにはできない」との見通しを述べた。その上で、トランプ政権は、「交渉を可能な限り引き延ばすことで、相手国から譲歩を引き出し続けようとする」と分析した。
カナダの交渉スタンスについて、同国の元北米自由貿易協定(NAFTA)首席交渉官のジョン・ウィークス氏は、カナダの最大の貿易相手国が米国であることから、「カナダはUSMCAを非常に重要視しており、継続を望んでいる」と述べた。ただし、11月の米国の中間選挙後や2029年のトランプ氏の退任後に、現在の米国の通商政策が維持されるか見通せない状況で交渉するのは困難との見通しを示した。米国とカナダはUSMCA見直しに向け非公式に協議している、と報じられているものの、公式協議に関する発表はまだない。
ウェビナーに参加したパネリストは、民間セクターにとって、予見可能性が重要だとの見解で一致した。しかし、トランプ氏は同日、USMCAについて「延長は考えていない」と述べ、米国はカナダとメキシコのいずれも「必要としていない」との主張をあらためて展開した。また、同協定には自身がこれを破棄できる条項が含まれているとも主張した(米通商専門誌「インサイドUSトレード」6月10日)。こうした状況を踏まえると、USMCAを巡る状況は当面、不安定な状況が続く見通しだ(注5)。
(注1)2020年7月1日に発効したUSMCAは、条文上、発効から16年後に失効すると定められている。ただし、発効6年後に見直し会合の実施が規定されており、この見直しで3カ国が延長に合意すれば、合意時点から16年間延長される。延長に合意できなかった場合、その後も毎年見直しが継続され、合意に至った時点でそこから16年間延長される。合意に至らない場合、USMCAは条文に従い2036年に失効する。
(注2)米国とメキシコの初の2国間の公式見直し協議において、米国は完成車のRVCを82%へ引き上げ、そのうち米国原産割合を50%とするよう提案した、と報じられた(2026年6月1日記事参照)。なお、米国原産割合の引き上げは、労働付加価値割合(LVC)の引き上げを指しているとの指摘もある。
(注3)現在の原産地規則では、域内国で一定程度加工していれば原産性が認められる。そのため米国は、企業の資本関係を基準にした新たな原産地規則を提案するのではないかとの指摘がある。
(注4)米国とメキシコとの2回目の公式見直し協議(6月16~17日)では、農業も議論される予定。
(注5)USMCAの見通しについては、2026年2月20日付地域・分析レポートも参照。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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