メキシコ大蔵公債省、投資促進と税務コンプライアンス順守のための運用指針を公布
(メキシコ)
メキシコ発
2026年05月12日
メキシコ大蔵公債省は5月4日、「生産的投資の促進および税務コンプライアンス順守に向けた、一般基準および運用指針を定める省令」を官報公示した。これは、同日に国立人類学博物館で発表した、投資の促進・確実性向上を目的とした複数の政令・省令の1つだ(2026年5月8日記事参照)。同省令は公布から翌日施行とした。主な内容は次のとおり。
- 税務当局は納税者の利益のため、国際条約の順守と二重課税を回避するための規定を順守し、これを促進する(第2条)。
- 税務当局は原則として、税務調査をサンプル分析によって行うこととし、会計年度および納税者ごとに1つの包括的な調査を行い、異なる会計年度についての同時審査を回避する(第3条、注1)。
- 監査および税務調査は、各種税法に定められた期限、手続きおよび要件に従って実施し、法的確実性の確保と審査基準の統一を促進する(第4条)。
- 監査において、適用される税法上の規定に基づき、遡及(そきゅう)禁止の原則を順守し、調査権限の行使にあたっては時効期間を尊重する(第5条)。
- 税務当局は、デジタル印章(Sello Digital、注2)の一時的な利用制限や抹消を最終手段としてのみ用いるように努め、その前に予防的・是正的措置の適用を優先する。また、適用される法規に基づき聴聞権を保障する(第6条、注3)。加えて、デジタル印章の一時的な利用制限や抹消による納税者への経済的影響を最小限にしつつ、問題の修正に向けた迅速な対応メカニズムを推進する(第11条)。
- 税務当局は業務プロセスの継続的な改善や対応時間の短縮を通じて、納税者番号(RFC)や 電子署名(e.firma)の取得簡素化を推進する(第7条)。
- 税務当局は、適用される法規に従い、過払い税額の還付期限を最適化するために業務プロセスを改善する(第8条)。
- 税務当局は、憲法および法令に基づき、比例原則(注4)を順守する(第9条)。
- システムの不具合により納税義務の適時履行が妨げられたことが認められる場合、当該不履行に対する制裁の賦課は回避される(第10条、注5)。
- メキシコ納税者擁護庁(PRODECON)の組織体制の強化を推進する(第12条)。
メキシコにおける税務調査の問題は解決されるのか
近年の税務調査は、理不尽と思われるものも多く、膨大な資料を何度も要求されるため、対応する国内企業・進出外資企業ともに大きな負担となっている(2026年1月9日記事参照)。そのため、内資・外資問わずメキシコで操業する企業・団体から、過度な税務調査の是正を要求する声があった。それを受け、税務調査の法令順守・簡素化を目的とする省令を出したとみられる。
しかし、5月4日の発表の中で、ラケル・ブエンロストロ汚職防止相が、PRODECONを汚職防止省の傘下とすることを発表した。これを受け、メキシコ公認会計士協会(IMCP)のゴメス・ムニョス委員は、独立機関であったPRODECONが政府の傘下に入ることに対して、「PRODECONの独立性が失われる。今後の活動方針について見極める必要がある」と発言(「エクスパンシオン」紙5月7日)。税務当局に対して、納税者を擁護する立場でもあったPRODECONの独立性が危ぶまれることに危機感を示した。
(注1)メキシコでは慣例上、税務調査で単年度ごとに調査・指摘することとなっており、複数年度にまたがる指摘は少ない。しかし、第3条に記載のとおり、法令の規定または特別な事情により追加的な権限の行使が必要とされる場合は、この限りではない。
(注2)Sello Digitalとは、インターネット・デジタル税務証票(CFDI、電子インボイス)を発行する際に必要な電子署名のこと。
(注3)聴聞とは、行政機関が重大な不利益処分を行う前に、対象者に意見を述べる機会を与える手続きのこと。これまでの税務調査では、聴聞することなく、更生通知が発出されるケースが散見されていた。さらに、国税庁(SAT)が対象企業のSello Digitalを一時的に利用停止・抹消するケースもあった。Sello Digitalが利用できない場合、企業はCFDIが発行できないため、CFDIにひも付く請求書の発出や給与の支払いなどができず、企業活動を実質的に停止せざるを得ない状況に陥っていた。
(注4)比例原則とは、適合性・必要性・狭義の比例性などを基に、納税者の負担が適切かを判断する考え方のこと。例えば税務調査では、対象が明確にもかかわらず、必要な範囲を超えた過度な資料提出や長期間にわたる調査を行うなど、手段が目的と釣り合わない場合、この原則に違反する可能性がある。
(注5)例えば、個人の確定申告や法人の税務監査報告書(Dictamen Fiscal)の提出期限の時期で、申請が殺到した結果、オンラインシステムがダウンするケースなどが考えられる。
(阿部眞弘)
(メキシコ)
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