欧州委、2026年以降のEU ETSベンチマークの改定案を公表、無償排出枠を実質拡大へ

(EU)

ブリュッセル発

2026年05月18日

欧州委員会は5月11日、EU排出量取引制度(EU ETS、注1)における無償排出枠の配分に用いるベンチマーク値を改定する規則案を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ベンチマーク値は、5年ごとに改定されるもので、今回の改定は2026~2030年の排出分に対する無償排出枠の割り当てに適用される。

EU ETSは、国際競争にさらされる産業に対し無償排出枠を割り当てており、事業者は無償排出枠を超える排出につき排出枠を購入することで炭素価格を負担している。ベンチマーク値は、製品ごとにEU域内で最も排出効率が良い(同じ量の製品をつくるために出す排出量が少ない)上位10%の施設の実績に基づき設定される。

規則案で注目されるのは、電力消費に伴う排出(間接排出)の扱いが大きく変更される点だ。現行規則でのベンチマーク値の算出においては、原則として生産活動において工場などから出る排出(直排排出)のみを対象とし、アンモニア、水素、スチームクラッキング製品など14製品(注2)については例外的に間接排出も考慮している。一方で、無償排出枠の割り当てにおいては、直接排出分に限定され、間接排出分は対象外となっている。これに対し、今回の規則案では、これら14製品について無償排出枠の対象を間接排出にも拡大する。結果として、無償排出枠の実質的な増加につながり、産業界が炭素価格の負担なしに排出できる範囲が広がることになる。

欧州委は、今回の規制案について、産業界の懸念に対応するもので、2026~2030年の期間で約40億ユーロ相当の支援効果が生じると試算している。また、産業界の電化による電力利用の拡大、つまり再生可能エネルギーや原子力由来の電力へのエネルギー転換を促す効果も期待できるとしている。一方で、政治専門紙「ポリティコ」は、規則案に関し、エネルギー価格の高騰を背景に炭素コストの負担軽減を求める産業界や加盟国からの圧力に配慮した結果だと指摘。環境団体からの批判は免れないだろう、と評している。

欧州委は、今後4週間にわたりパブリックコメントを募集し、加盟国の審査を経て、6月末にも規則案を採択する方針だ。なお、4月にはエネルギー価格高騰への対策として炭素価格の過度の上昇を抑制する市場安定化リザーブの改正案(2026年4月9日記事参照)を提案したほか、7月にはEU ETSの包括的な見直しを予定している。

(注1)詳細は、調査レポート「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書(2024年5月)」を参照。

(注2)規則案Annex外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの「2. Product benchmarks with collection of data on electricity consumption」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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