欧州委、炭素価格の乱高下を抑制する市場安定化リザーブの強化案を発表
(EU)
ブリュッセル発
2026年04月09日
欧州委員会は4月1日、EU排出量取引制度(EU ETS)市場の長期安定化を目指し、排出権価格(オークション価格)の乱高下を抑制するため、2019年に導入した「市場安定化リザーブ(MSR)」を強化する改正案を発表した(プレスリリース
)。3月の欧州理事会(EU首脳会議)後の共同記者会見で、欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が発表していたものだ(2026年3月26日記事参照)。
MSRは、EU ETSの第3フェーズ(2013~2020年)にかけて、低迷していた排出枠価格(添付資料図参照)の長期的な解決策として導入されたもの。毎年5月ごろに公表される、市場参加者が保有する排出権の総量(TNAC)に基づき、流通量が過剰な場合には、翌年以降のオークション予定量の一部をMSRに取り置き、不足している場合にはMSRから排出枠を市場に供出することが、自動的に決定される仕組み(注)。
現行の仕組みでは、中長期的に排出枠余剰分を削減するため、4億枠を超える分は無効化される。制度導入から2024年までに合計32億枠が失効している。今回の改正案は、排出枠の失効を停止することにより、MSRのバッファー機能を強化し、中長期的な制度の安定性を確保するもの。欧州委は今回の改正案について、炭素価格を操作するものではなく、EU ETSの市場原理を維持した上で、エネルギー価格の変動や地政学的緊張により、将来的な供給逼迫や過度に価格が上昇した場合に限り、MSRから排出枠を供出することにより、制度の安定性と予見可能性を高めることを目的とすると強調した。中東情勢などを背景に炭素価格が上昇基調にあり、制度導入当初の目的とは逆に、過度に価格が上昇するのを抑えることを目的とする本改正案は、EU ETSの再検討を主導してきたイタリア、ポーランド、オーストリアなどの加盟国にとって歓迎される変更、と報道されている。
法案は今後、欧州議会とEU理事会(閣僚理事会)で審議される。なお、EU ETSの包括的な見直しは2026年7月に予定されており、MSRの在り方についても中長期的な視点から検討される予定。
(注)現行のMSRは、市場におけるEU排出枠(EUA)の余剰排出枠が8億3,300億枠を超えた場合(8億3,300万枠~10億9,600万枠の予備領域間である場合)、余剰排出枠の24%相当分のオークションが延期され、翌年9月からのMSRに取り置かれる。一方、4億枠未満の場合、MSRに取り置かれた排出枠から最大1億EUAがオークションにより市場投入される。詳細は、調査レポート「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書(2024年5月)
(1.7MB)」を参照
(薮中愛子)
(EU)
ビジネス短信 94b01e046aca2a64





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