インフラ投資促進に向けた新法を公布、特別目的事業体を効率的に活用

(メキシコ)

調査部米州課

2026年04月15日

メキシコ政府は4月9日、官報で「福祉を伴う開発のための戦略的インフラ投資促進法」(以下、「インフラ投資促進法」、注1)を公布した。戦略的インフラへの投資を官民の協働により促進するための制度枠組みを体系化したもの。輸送、エネルギー、水資源、環境、医療、教育、都市開発、観光、工業団地、デジタル分野などを「戦略的インフラ」と位置付け、経済成長促進と社会的厚生の向上を同時に実現することを目指す。

制度の中核となるのが、特別目的事業体(SPV、注2)の活用だ。SPVの活用により、特定プロジェクトに関する財政リスクを連邦政府から切り離しつつ、リスク・資本・収益を官民で分担することが可能となる。また、インフラ事業から生じる収益を資産から切り出し、証券として売買可能にするための法的・金融的な受け皿として機能することで、証券市場を通じた資金調達を可能とし、限られた国の投資予算を補完することを視野に入れる。

官民連携の形態としては、長期契約や共同投資などが盛り込まれているが、エネルギー分野(電力、炭化水素)などについては、既存の部門別法律に基づく形態が優先適用される(2025年5月1日付地域・分析レポート参照)。長期契約は、民間企業がプロジェクト資金を全て調達するが、長期にわたり国から支払われるサービス対価を通じて投資を回収する。共同投資は、国と民間が共同で資金を拠出するが、国の出資は不動産などの現物、利用権や開発権の付与などを通じて行うこともできる。

プロジェクト選定と政策調整を担うため、「インフラ投資戦略的計画審議会」(以下、「審議会」)が新設される。大統領を議長に、大蔵公債省、環境天然資源省、国防省、海軍省、エネルギー省、経済省、インフラ通信運輸省など12の政府機関の代表が参加する。審議会は、技術的・財務的妥当性に加え、環境、社会的便益、財政影響を横断的に評価する。

新法は、国家インフラ開発基金(FONADIN)、開発銀行、多国間金融機関の関与や国による保証・信用補完による支援可能性を明示する一方、連邦予算責任法の改正と連動し、同法第16条(注3)など複数の条文において中長期支出や複数年コミットメント、偶発債務、財政リスクの可視化と報告義務が強化されており、財政規律に配慮した内容となっている。

実効性は未知数、審議会の運用の方向性に注目

新法は、インフラ投資を国家戦略の中核に据えつつ、官民資金を動員するための政策・金融・ガバナンスの共通基盤を整備するものだが、その実効性は、今後策定される施行規則や大蔵公債省の指針、審議会の実際の運用に大きく依存すると見られている。民間シンクタンクのメキシコ競争力研究所(IMCO)は、審議会に独立した外部専門家の参加が制度上想定されていないため、戦略的プロジェクトの採択において、時の政権の恣意(しい)的な意向が反映されるリスクを指摘している(IMCOプレスリリース2026年3月27日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(注1)クラウディア・シェインバウム大統領が3月19日に下院に提出し、3月25日に賛成多数で下院を通過、4月7日に上院を通過して成立した。シェインバウム政権が2月3日に発表した「福祉開発におけるインフラ投資計画2026-2030」(2026年2月13日記事参照)で掲げた5年間で5兆6,000億ペソ(約50兆4,000億円、1ペソ=約9.0円)の投資を実現するための制度的枠組みを定める新法。

(注2)特別目的事業体(SPV)とは、特定事業や資産の保有・運営など限定目的で設立され、親会社と独立して資産・負債・リスクを分離管理し、証券化やプロジェクトファイナンスで活用される事業体。

(注3)連邦政府が作成する次年度の財政見通しや予算編成の基礎文書に何を記載すべきかを定める第16条に、当年度だけでなくその後5年の支出コミットメントや主要リスクを明示することが追加された。IMCOは、インフラ建設はさまざまな要因による遅延などで6年を超えることも多いため、建設が開始されたプロジェクトへの予算措置が途中で途切れるリスクを指摘する。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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