欧州委、EU共通法人形態「EU Inc.」導入法案を発表、スタートアップの規模拡大を後押し
(EU)
ブリュッセル発
2026年03月25日
欧州委員会は3月18日、新たなEU共通の法人形態である「EU Inc.」を導入する法案を発表した(プレスリリース
)。法案は、EU域内産業の競争力強化に向けたビジネス環境の改善を目的とし、27の加盟国法とは別に、企業が任意に選択できる28番目の企業規制枠組み(28th regime)の中核をなす。欧州委が支援を強化するスタートアップやスケールアップ(2025年6月13日記事参照)を念頭に、域内での設立や規模拡大を容易にすべく、EU Inc.の設立から清算までの全サイクルの手続きを包括的に規定する。
背景にあるのは、スタートアップが規模拡大時に直面する過度な行政手続き負担だ。EUは単一市場というものの、実際には27の加盟国法に基づく60以上の法人形態があり、域内で複数の加盟国に進出するたびに複雑な行政手続きを強いられる。域内での資金調達の難しさと相まって、スケール段階で米国へ拠点を移転する動きが相次いでいる。
そこで、法案はまず手続きのデジタル化、迅速化、簡素化を提案する。具体的には、EU Inc.の設立を、48時間以内にオンライン上の手続きのみで可能にする。設立費用は100ユーロ未満で最低資本金要件はない。法人登記を置く加盟国は自由に選択することができる。企業情報は、各加盟国の商業登記簿に接続されたEUレベルのインターフェースへの1度の提出で済み、税務識別番号や付加価値税(VAT)登録番号などは別途申請なしで取得できる。今後、EU Inc.の情報を保管するEU中央登記簿も新設する予定だ。また、起業家の再起を促進すべく清算手続きをオンライン化し、革新的なスタートアップについては倒産手続きも簡素化する。
さらに、法案は投資や人材を呼び込むための環境も整備する。投資家向けには、株主に対し求める対面手続きの撤廃、株式発行など資金調達手続きのデジタル化、株式譲渡の簡素化などの規定を盛り込む。また、高額な給与を支払うことが難しいスタートアップが優秀な人材を引き付けるために導入するストックオプションについても、EU共通制度(EU-ESO)を導入し、ストックオプションに対する課税は売却時に限定する。
一方で、労働法、社会保障法は法案の対象外であり、設立国の加盟国法が適用される。税制について、欧州委は中小企業の税制上の事務負担を簡素化する法案(HOT法案、2023年9月27日記事参照)や共通法人税枠組みを導入する法案(BEFIT法案、2023年9月22日記事参照)を既に提案しているほか、税制簡素化オムニバス法案を今後提案予定だ。
なお、法案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会によって審議されるが、欧州委は早期にビジネス環境の改善を進める必要があるとし、2026年中の合意を目指すとしている。
(吉沼啓介)
(EU)
ビジネス短信 5d2ef4c42083717f






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