欧州委、大企業に対するEU共通の所得課税の枠組みに関する法案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2023年09月22日

欧州委員会は9月12日、大企業に対するEU共通の所得課税の枠組み(BEFIT)に関する指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。BEFIT指令案は、企業グループ内の課税標準の決定方法を統一すべく、共通ルールを導入するものだ。これにより、対象企業はコンプライアンスコストを最大65%減らすことができると試算している。今回の提案は、財源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20の包摂的枠組みの国際的な最低法人税率に関する第2の柱に基づく。欧州委は、2021年5月に発表した政策文書でその方向性を示していた(2021年5月1日記事参照)。最低法人税率に関するEU指令(2021年12月23日記事参照)については、2022年12月に採択されている。

BEFIT指令案の対象となるのは、加盟国内に税務上の拠点を置く企業と、域外国に税務上の拠点を置く企業の加盟国内の恒久的施設だ。このうち、適用が義務付けられるのは、過去4会計年度のうちの2会計年度において年間収益の合算が7億5,000万ユーロ以上の企業グループのうち、最終親会社が直接的にあるいは間接的に75%以上を保有する域内のグループ企業だ。ただし、EU域外に本社がある企業グループに関しては、過去4会計年度のうちの2会計年度において域内のグループ企業の年間収益の合算が5,000万ユーロを超えない、あるいは域内のグループ企業の年間収益の合算がグループ全体の収益の5%を超えない場合は、義務化の対象外となる。なお、義務化の対象外の企業グループであっても、連結財務諸表を作成している場合、BEFIT指令案の適用を自主的に受けることができる。

BEFIT指令案によると、域内の同一グループに属する企業は、(1)最終親会社(最終親会社が域外国にある場合は、域内で税務申告をするグループ企業)が採用する域内で認められた会計基準に基づき課税標準を計算する。(2)同一グループに属する域内のすべての企業の課税標準を合算し、EUレベルでの単一課税標準とする。これにより、域内であれば国境を越えた損失に対する控除が可能になる。(3)2028年7月から2035年6月までの移行措置として、単一課税標準における域内の各グループ企業が占める割合を、過去3会計年度の税引き前利益の平均を基に計算し、各グループ企業に割り当てる。他方で、税率に関しては、各加盟国が引き続き決定し、適用する。

このほか欧州委は、域内の移転価格に関する指令案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)も発表した。すべての加盟国は、OECDが定める、独立した企業間での取引条件と同等の条件を、国外グループ企業との取引にも適用する独立企業間原則を既に国内法化しているものの、国内法の詳細は加盟国ごとに異なっている。欧州委は、こうした差異が利益移転や税金逃れなどの温床になっていると指摘。移転価格指令案により、独立企業間原則や価格移転に関する主要なルールをEU法に取り込むことで、域内の移転価格に関する各加盟国の国内法の調和を目指す。

両指令案は今後、EU理事会(閣僚理事会)で審議されることになる。採択されれば、国内法化を経て、BEFIT指令案は2028年7月から、移転価格指令案は2026年1月から適用される。欧州委は、加盟国によるOECD/G20の包摂的枠組みの合意や最低法人税率に関するEU指令の採択などにより、機運が高まっているとして、両指令案の合意に自信を見せる。ただし、BEFIT指令案の前身となる共通連結法人税課税標準指令案(CCCTB)は2011年と2016年に提案され、それぞれ事実上廃案となっている。両指令案の採択には加盟国の全会一致の合意が必要となることから、審議は難航するとみられる。

(吉沼啓介)

(EU)

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