IMF専務理事、米国の経常収支赤字は差し迫った懸念ではないとの見解、122条関税を牽制

(米国)

ニューヨーク発

2026年02月27日

IMFのクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は2月25日、IMF第4条協議(注1)に関する対米審査終了後の記者会見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、米国の経常収支赤字は差し迫った懸念ではないとの見解を示した。ドナルド・トランプ米大統領は、連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を無効とする判決を下した後、「国際収支赤字」を理由に1974年通商法122条に基づき10%の輸入課徴金を課す大統領布告を発表している(注2)(2026年2月24日記事参照)。

ゲオルギエバ専務理事は、米国の貿易赤字と経常赤字の規模について「政権と同様の懸念を抱いている」と述べ、「この不均衡は是正される必要がある」との見解を示した。一方で、不均衡解消のための関税措置については、「供給に悪影響を及ぼし物価上昇を加速させ、成長の妨げとなっている」として、米国に対して貿易相手国と「貿易制限措置の協調的削減で合意するよう促している」と述べた。また、記者からの質問には、経常収支赤字への対処は必要としながらも、先進国の中で唯一高い経済成長が見込まれることなどから、「経済状況に差し迫った懸念はない」と答えた。政治専門紙「ポリティコ」(2月25日)は、ゲオルギエバ専務理事の発言に関し、「大規模かつ深刻な国際収支の問題を抱えているとの米国の主張に対して、トランプ氏が最近導入した関税措置(122条)の法的根拠に疑問を呈した」と伝えた。

トランプ氏は10%の課徴金を課すことを定めた大統領布告において、財・サービス貿易収支(2026年2月25日記事参照)、一次所得収支の投資所得および雇用者報酬がネットで赤字となる局面が続き、二次所得収支でも海外送金などの移転収支が受け取りを上回る支払い超過を計上していることを例示し、「米国は貿易赤字を抱え、海外に投入する資本と労働から純利益を得ておらず、国外に流出する移転支払いが流入を上回っている」として、「米国の国際収支は大規模かつ深刻な赤字状態にある」と結論付けた。特に財の貿易赤字については、過去5年間で40%以上増加していることなどから「米国が直面する国際収支の根本的問題の一因」と指摘した。

ただし、議会調査局(CRS)は、これまで122条に基づいた措置は発動されたことがないことから、「国際収支赤字」という言葉の詳細な定義について裁判所が解釈する機会がなかったと指摘している。例えばCRSは、122条a項が「国際収支(balance-of-payments)」と記載する一方、特定の状況下での関税引き下げなどを認める122条c項は「貿易収支(balance-of-trade)」と記載していることから、「国際収支赤字」が「貿易赤字」を指さない可能性を指摘している(注3)。

こうした状況から、首都ワシントンの通商政策の専門家は、122条を基にした課徴金賦課には法的リスクがあり訴訟が起こるだろう、との見解を示しつつも、150日の期間内には裁判が終わらないため、実質的には違法の可能性があっても関税の賦課は継続されると指摘している(2026年2月24日記事参照事)。米国の関税措置は不透明な状況が続いていることから、今後の情報を注視する必要がある。

(注1)IMF協定第4条に基づき、IMFは加盟国と2者間協議を毎年行い、その国の経済状況や経済政策について報告書を作成する。

(注2)通商法122条は、a項において、(1)大規模かつ深刻な米国の国際収支赤字への対処、(2)外国為替市場におけるドルの差し迫った大幅な下落の防止、または(3)国際収支の不均衡是正に向けた他国との協力のため、大統領が150日間にわたり、米国への輸入において一時的に関税の形態で「15%以下の課徴金」「割当制限」のいずれか、または両方を課すことを認めている。なお、期間は議会の承認により延長可能。また「割当制限」を課すには別途条件が定められている。

(注3)CRSは、当初提出された122条案ではa項もc項も「国際収支」と記載されていたが、c項では意図的に「貿易収支」に修正された、との、上院で通商を所管する財政委員会の報告書を紹介している。

(赤平大寿)

(米国)

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