EUの鉄鋼セーフガード後継措置案を巡り、川上・川下業界が対立

(EU)

ブリュッセル発

2026年01月22日

欧州委員会が2025年10月に発表した、現行の鉄鋼セーフガード措置に代わる新たな貿易措置案(2025年10月14日記事参照)に関し、鉄鋼業界と鉄鋼を使う側が対立している。

欧州自動車工業会(ACEA)など鉄鋼ユーザー業界10団体は2026年1月6日、より慎重かつバランスの取れた措置を要請する共同声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。公正な競争条件の確保や世界的な過剰生産に対処する必要性に理解を示した上で、欧州委案は過度に保護的と述べ、次の懸念や修正案を示した。

  • 欧州委案は現行制度の関税割当量をほぼ半減させるとともに、超過分に課す関税率を現行の25%から50%へと倍増させる。2024年と同等の輸入水準が維持されると仮定した場合、ユーザー業界は年間50億~90億ユーロの追加関税負担を強いられることになる。
  • 平均鉄鋼価格が新措置により3.25%上昇という欧州委の試算でも十分な打撃だが、特定の鉄鋼カテゴリーでは最大30%の価格上昇が見込まれる。
  • 製品に使用された鉄鋼の溶解・鋳造国を証明するミルシート(鋼材検査証明書)などの提出義務は、中小企業を中心に大きな負担となる。少額の輸入貨物での対応は困難な場合も想定され、より現実的、また段階的な適用が必要。
  • 世界でも限られた事業者のみが生産している特殊鋼や高品質鋼材など、EU域内で十分な数量が確保できない特殊な製品の調達がさらに厳しくなる。
  • スイスなど、EUと緊密な通商関係にある国は過剰生産とは無関係で、高性能な製品に使用される持続可能かつ特殊な製品の重要な供給元として、EUのバリューチェーンに組み込まれており、措置の適用対象外とすべきである。

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は1月14日付の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおいて、欧州委案はユーザー業界にも配慮して設計されたと述べ、10団体に反論した。まず、製品価格の上昇への懸念に対し、新措置は輸入を持続可能な水準に抑え、安定させることを目的としており、輸入品の減少は稼働率の低い域内の鉄鋼設備での生産で代替可能であり、価格上昇につながる供給減は起きないとした。また、引き続き十分な量の無関税枠が設定され、価格は需要や国際価格を反映し、極端に変動する可能性は低く、必要であれば措置の調整も可能との見解を示した。

次に、鉄鋼の溶解・鋳造国の証明の義務化は、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM、2025年12月19日記事参照)における炭素排出量の算出にも必要な事項で、輸入事業者にとって新たな負担となるものではないとした。また、過剰生産に関係のない国から輸出される特殊製品に関しては、広範な製品カテゴリーに関税割当量が設定されているため、十分な輸入量を確保でき、EUのバリューチェーンと密接に関わる生産国が計画的に無関税枠を活用することも可能と述べた。

(滝澤祥子)

(EU)

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