欧州委、鉄鋼セーフガード措置の後継措置案を発表、強まる域内産業保護色

(EU)

ブリュッセル発

2025年10月14日

欧州委員会は10月7日、2026年6月末に終了する現行の鉄鋼セーフガード措置(2025年3月28日記事参照)に代わる新たな貿易措置に係る規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。鉄鋼製品28品目に、関税割当枠(クオータ)を設定し、超過分には50%の関税を課す。規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

新措置案は、EU鉄鋼業界を世界的な過剰生産の影響から守り、雇用維持や脱炭素化を支援し、長期的な持続性の確保を目的とする。現行措置と比較し、関税割当量を年間約1,830万トンまで削減(2024年比47%減)し、超過分への税率を現行の25%から2倍の50%に引き上げる。四半期ベースで管理する割当量の未使用分は、次の四半期に持ち越さない。また、迂回輸出対策として、製品に使用された鉄鋼の溶解・鋳造国を証明するミルシート(鋼材検査証明書)などの提供を輸入事業者に義務付ける。域内産業の保護に積極姿勢を打ち出すとともに、開かれた貿易の原則を維持し、WTOルールに整合すると主張した。

措置の対象国は、欧州経済領域(EEA)のノルウェー、アイスランドとリヒテンシュタインの3カ国を除く、全ての域外国だ。だが、委任法令によって、自由貿易協定(FTA)締結国と個別のセーフガード措置を導入することは可能で、ウクライナや英国は国内情勢や既存の合意に応じ対応を取るとした。

対象製品は、規則案の採択後2年ごとに見直しの必要性を評価する。また、2031年7月1日までに措置の実効性について評価し、その後は5年ごとに評価、状況に応じて措置の内容の見直しや終了を検討する。

過剰生産については、「鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム(GFSEC)」(注)など国際的な連携を主導していく。また、同志国に対し、供給網の安定と相互の市場アクセス拡大を図りながら、過剰生産から自国の経済を守るために協働するよう呼び掛けた。

鉄鋼業界とユーザー業界の反応分かれる

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは同日、「鉄鋼業界の要望に応えた救済策となり、同業界を保護する大きな前進」と規則案を歓迎し、2026年初頭にも開始すべく、迅速な採択を要請した。一方、ユーザー業界では、欧州自動車工業会(ACEA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますが10月8日、過度な保護策ではないかと疑義を呈した。自動車産業では、直接購入する鋼材の約90%が域内で調達されているため、同措置による価格の上昇や原産地要件の厳格化に伴う負担の増加が懸念される。ACEAは、欧州委が各業界の鉄鋼需要を把握する必要があると述べた。

欧州委は供給不足への懸念に対し、新措置はクオータの大幅削減により、域内生産量の回復を促す狙いがあること、また供給量不足が懸念される場合は特定の品目の割当量の調整なども可能であるとし、供給量は維持可能との見方を示している。

(注)2016年に設立された過剰生産への対処に向けた国際的なプラットフォーム。EU、日本など28の国・地域が参加し、OECDが事務局を務める。

(滝澤祥子)

(EU)

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