先進自動車バッテリーカンファレンスがラスベガスで開催、開発やコスト削減を議論
(米国、中国)
ニューヨーク発
2025年12月22日
米国ネバダ州ラスベガスで「先進自動車バッテリーカンファレンス(AABC)
」(2025年12月19日記事参照)が12月8~11日に開催された。トランプ政権下での電気自動車(EV)に対する税額控除の撤廃や環境規制の緩和を受け、車載用バッテリー市場の先行き不透明感が強まる中、会期中のセミナーでは市場の縮小に備えたコスト削減努力などが議論された。
ゼネラルモーターズ(GM)は、正極材にリチウムとマンガンを利用するLMR(リチウム・マンガン・リッチ)電池の開発に力を入れると強調した。LMRは、GMが韓国のLGエナジーソリューションと共同開発した次世代バッテリー。コバルト、ニッケルを使用せず、比較的低価格のマンガン比率を高めることで、現在主流のNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)電池よりも価格を抑えることが可能だ。NCMより低価格のリン酸鉄リチウムを主な原料とするLFP電池に比べると価格面では劣るが、エネルギー密度が高く、価格と性能のバランスをとる選択肢として注目されている。GMは、ミシガン州で建設中のバッテリーセル開発センターを含め、米国内でのLMRの量産を目指すとアピールした(2025年5月15日記事参照)。
一方、ピボット・リサーチのキンバリー・バーマン氏は、バッテリー材料の調達において米国が海外に依存している状況をあらためて強調した。中でも、マンガンは世界の供給量の95%が中国製であるため、中国リスクを回避しつつLMRの開発を進めるには、大規模な政府支援を前提とした調達先の確保が必須だと述べた。
また、台湾の工業技術研究院のマーク・ルー博士は、中国政府が中国内の6社に対し、約60億元(約8億5,000万ドル)規模の支援を行い、10カ年計画で全固体電池よりも低コストの「半固体電池」(注1)の実用化を後押ししている、と報告した。NCM、LFP双方で採用し、2035年には1キログラムあたりのエネルギー密度を500ワット時(Wh)まで高める計画だ(注2)。
さらに、ブルームバーグNEFのバッテリー技術部門長であるエベリーナ・ストイコウ氏は、車載、定置型電池を含む世界市場の見通しに関し、短期的には政策の変動により不透明感が強いものの、長期的には技術開発による価格低下が需要を下支えし、底堅い成長が期待できるとの見方を示した。従来のNCM電池に代わり、LFP電池の採用が拡大していることからすでにバッテリーパックとセルの価格の低下が進んでおり(注3)、2025年の世界平均価格は1キロワット時(kWh)あたり108ドル、そのうちEV向けのみは97ドルまで低下したと報告した。ただし地域差は大きく、北米や欧州の価格水準は中国の約1.5倍に達するなど、バッテリー市場における中国の優位は依然続くとみている。
(注1)通常の液体の電解質の代わりに、ゲル状の半固体電解質を利用することで、発火のリスクを低減しつつ、液体よりもエネルギー密度を高められる利点がある。
(注2)一定の質量中に蓄えたり、取り出したりできるエネルギーの量。バッテリー情報サイト「バッテリー・ニュース(2025年3月10日)」によると、テスラが現在採用するNCMの4,680セルは1キログラムあたり241Whに達した。
(注3)2022~2024年の平均価格は1kWhあたり170ドル、148ドル、118ドル(ブルームバーグNEF調査による)。
(大原典子)
(米国、中国)
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