トランプ米政権がWTO改革を訴える声明発表、最恵国待遇(MFN)や安全保障例外に懸念表明

(米国)

ニューヨーク発

2025年12月18日

米国は12月15日、WTO改革を訴える声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。声明には、WTOが改革すべきアジェンダに最恵国待遇(MFN)や安全保障例外の適用を含めるべき、WTOは貿易不均衡、過剰生産、経済安全保障、サプライチェーンの強靭(きょうじん)性などの課題に対処できない、といった主張が含まれている(注1)。

声明ではまず、「米国は、WTOが体現する貿易システムに対し深刻な懸念を抱いている」とし、過剰生産に起因する貿易不均衡は、多くの国・地域に依存関係と脆弱(ぜいじゃく)性をもたらし、「産業能力を開発、維持しようとする多くの国・地域の正当な願望を損なってきた」と批判した。その上で「WTOは、グローバルな貿易システムにおける既存および将来の課題の全てを解決する場として機能できない」と続けた。また、加盟国・地域の経済システムに大きな差異があることから、「166の加盟国・地域間で、新たな実質的な協定の合意は極めて困難」だと主張し、「加盟国・地域は多国間交渉から得られるものを全て絞り尽くした可能性がある」とも記載した。

WTO創設当初は「各国は、開放的で市場志向の通商政策を採用することが期待されていた」としながらも、「この期待は甘く、その時代は過ぎ去った」として、一部の国が公正で市場志向の競争を追求・維持する意思を持たない、多くの国が慢性的な貿易黒字を追求し貿易赤字国に経済的・政治的悪影響を与えていることなどから、「異なる貿易相手国を差別的に扱う能力を持たねばならない」とMFN改革を主張した。

安全保障例外の適用については「各国が自国の安全保障上の利益を保護するために必要な措置を講じる主権的権利を有する」とこれまでの米国の主張をあらためて述べた上で、「WTOのパネルは近年、加盟国が自国の安全保障上の利益と判断した措置について、WTOが判断を下す権限を有すると結論づけている」と批判した(注2)。

経済安保については、議論に機密情報が含まれることから、「政府間の信頼・機密保持・共通利益が不可欠」だとし、価値観や認識が異なる国による議論には重大なリスクが伴うとして、「WTOにおける経済安保の取り組みは不適切」と主張した。サプライチェーンの強靭性についても、「加盟国が重要物資を集中供給源ではなく自国を含む複数地域から調達することが求められる」「この目的を達成するためには、信頼性の低い国々に対して貿易障壁を課し、代替する国に対して補助金を支給し、不公正な競争ではなく真の市場原理を反映した価格設定を許容する必要がある」として、WTOの原則に基づいた議論に適さないと主張した。

トランプ政権はこれまでたびたび、WTOを批判する声明を発表している(2025年9月5日記事参照)。ただし、MFN改革の必要性といった主張は、必ずしもトランプ政権に限ったものではなく、例えばバイデン前政権下の国家安全保障会議(NSC)などで要職を担った経験もある新アメリカ安全保障センター(CNAS)のシニアフェローであるジェフリー・ガーツ氏は、「そもそも2018年以降、米国は実質的にMFNを支持していないし、MFNはもう機能していない」と述べている(2025年9月10日付地域・分析レポート参照)。米国の主張どおりにWTOが改革されるかは不透明ながら、今後の国際通商システムに影響力を有する米国の主張は注視する必要がある。

(注1)ジョセフ・バールーン通商代表部(USTR)次席代表が、10月にWTO大使に承認されて以降(2025年10月9日記事参照)、WTOに対する初めての主要な声明となっている。

(注2)米国は、1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品輸入への追加関税措置を「戦時その他の国際関係の緊急時」としていたが、2022年にパネルがそれを認定しないと判断したことや、WTO協定上は先例拘束性を有しないにもかかわらず、上級委員会の判断が事実上の先例となり協定解釈を拡大していることなどを問題視している。これらの理由から、米国が上級委の新委員の選任を拒否した結果、2019年12月に、上級委員会の委員数が審理に最低限必要な3人を割ったことで機能停止に陥った。

(赤平大寿)

(米国)

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