米税関、鉄鋼・アルミ232条関税率の計算方法に関する非公式見解を輸入者に通知

(米国)

ニューヨーク発

2025年12月25日

米国では12月以降、1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税措置に関して、税関・国境警備局(CBP)が輸入者に対し、鉄鋼・アルミの含有量の計算方法について情報提供を呼びかけているほか、非公式ながら計算方法に関するCBPの一部門の見解を通知している。

トランプ政権は232条に基づき、鉄鋼・アルミ製品だけでなく、これらを利用して生産される「派生品」の輸入にも50%の追加関税を課している。派生品については原則、製品に含まれる鉄鋼やアルミの価値に対してのみ追加関税を課しているが、CBPは含有価値の計算方法に関する詳細なガイダンスを発表しておらず、不透明な通関実態が続いている。こうした中、日系企業の間では、自社が合理的に判断した鉄鋼・アルミの含有量を基に輸入申告するケースと、関税の過少申告リスクを避けるために輸入申告価格全体を鉄鋼・アルミの価値として申告するケースなどが混在している。

通商に詳しい法律事務所によると、CBPは12月に入って、Customs Form(CF)28PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(情報提供要請書)やCF29(措置提案・通知書)を輸入者に送付している(注1)。CF28は通常、関税分類、原価評価、原産国などを税関が確認する際に送付され、これを基に正しい通関実務を要請するためにCF29が送られる。政治専門紙「ポリティコ」(12月23日)などによれば、12月上旬に、CBPのセンターズ・オブ・エクセレンスアンドエキスパティーズ(Centers of Excellence and Expertise)の1つであるベースメタル・センター(Base Metals Center、注2)が、CF29に基づき鉄鋼・アルミ含有量の計算方法に関する解釈を通知した。ポリティコなどが報じている同センターの通知によれば、例えば輸入品が100%鉄鋼・アルミで生産されている場合、分離すべき非鉄鋼・非アルミが存在しないことから、輸入品の申告価格全額に対して232条関税が課される。また、鉄鋼・アルミとそれ以外の部材が混在している場合、鉄鋼・アルミ含有量の計算方法は、「輸入申告価格全体から非鉄鋼・非アルミの価値を差し引いた残りの金額が、232条関税の対象」との見解を示している。

他方、過去にジェトロに寄せられた情報や質問を総合すると、日系企業の現状の対応としては、輸入品に含まれる鉄鋼・アルミの購入価格相当に232条関税を適用し、それ以外の部分に一般関税やその他の追加関税(注3)がかかるよう申告しているケースが多い。すなわち、加工賃などに相当する部分は232条関税の対象外との理解が浸透している。そのため、前述のベースメタル・センターの解釈に基づく場合、企業の関税コストは増すことになる(添付資料表参照)。

なお、この解釈はCBPによる公式な見解ではなく、新たなガイダンスも公開されていない。ポリティコによれば、CBPはメディアへの公式な回答を控えている。前出の法律事務所は、今回の状況について「より具体的なガイダンスを提供する前に、輸入業界の実態を把握しようとしているものと推測される」との見解をジェトロに示す一方で、「ホワイトハウスで、執行への関心が高まっている」とも指摘する(注4)。司法省は2025年8月に、関税の不当な回避や輸入禁止物品の密輸の取り締まりを強化するためのタスクフォースを設立している(2025年9月4日記事参照)。

現時点では、どういった計算方法が正式なガイダンスとして今後出されるか不明で、不透明な状況は続く。輸入者は引き続き、自社の判断を合理的に示せるよう、通関書類の適切な保存が求められる(2025年10月14日記事参照)。

(注1)ジェトロに対するメールでの連絡(12月8日)。

(注2)センターズ・オブ・エクセレンスアンドエキスパティーズは、CBPを代表して貿易コンプライアンスの解決など、通関後の実務を補佐する役割を担い、10の産業分野ごとに配置されている組織。

(注3)232条関税の対象外となる価値には、相互関税なども適用される。

(注4)前半はメールでのジェトロへの連絡(12月8日)、後半はジェトロによるインタビュー(9月16日)。

(赤平大寿)

(米国)

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