欧州委の研究機関、EUの農業政策に経済的実効性や環境保護などのバランスを求める

(EU)

ブリュッセル発

2025年11月05日

欧州委員会の共同研究センター(JRC)は10月27日、EUの2040年までの4つの農業政策シナリオ〔現状維持、EUの共通農業政策(CAP)を除いた仮定モデル、生産性と投資重視、環境と気候対策重視〕を検証し、環境・経済・社会面の影響を定量化した報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。本報告書は、CAPを巡る議論(2025年7月30日記事参照)に貢献することが狙いだ。

CAPを完全に除いた仮定モデルの場合、さまざまな悪影響(農業総所得の11.0%減少、小規模農家の損失拡大、EU全体の食料生産量の5.4%減少など)が生じるとし、CAPの重要性を強調した(添付資料表参照)。

CAPを生産性と投資(競争力の向上)に集中させた場合のシナリオでは、現状維持に比べ、EU全体の農業生産性は2.7%改善、食料価格は低下、EUの貿易収支は27億ユーロ改善する。雇用への影響は少ないが、域内の環境負荷が拡大する可能性がある。具体的には、農業由来の温室効果ガス(GHG)排出量の増加(0.5%増)や、窒素過剰量(ヘクタール当たり)の増加(1.2%増)などが懸念される。

CAPを環境と気候対策に集中させた場合のシナリオでは、現状維持に比べ、GHG排出量は1.7%減、窒素過剰量は1.7%減、作物の多様性が促進されるほか、9万件の新規雇用が創出される。一方、農業生産性は4.0%減、食料価格は上昇、輸入が拡大し貿易収支は18億ユーロ悪化する。

生産性重視の戦略は、資源効率・生産効率を高め、経済的な効率を向上させ、家畜数と農地の拡大を抑える。一方、環境重視の戦略は、面積または家畜当たりの環境負荷を低減するが、生産量水準を維持するためにより多くの家畜と土地を必要とし、生産量単位当たりの負荷を増大させる。

貿易への効果は複雑で、環境重視の場合は、EUの農業由来のGHG排出量は減少するが、規制の緩い国・地域へのカーボンリーケージ(炭素漏出)が生じ、世界の総排出量を増加させる可能性がある。生産性重視の場合は、EUのGHG排出量は微増するも、GHG排出抑制効率の高いEU製品が低排出効率な競合製品と置き換わり、世界の総排出量は減少する可能性がある。

同報告書は、EUと地球規模の両方で、経済的実効性や食料安全保障、環境保護の間の複雑なトレードオフを乗り切れる、均衡の取れた政策アプローチを欧州委員会に求めた。

(大中登紀子)

(EU)

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