米国の相互関税、農産品は対象外、ブラジル産業界は賛否分かれる

(ブラジル、米国)

サンパウロ発

2025年11月20日

米国のドナルド・トランプ大統領は11月14日、肥料、牛肉、オレンジジュース、コーヒーなどの農産品に加え、石油製品や鉱区部品などを含む約200品目を、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく10%の相互関税の対象外とする大統領令を発表した(2025年11月17日記事参照)。これを受け、ブラジル産業界からは評価と懸念が入り混じった声があがっている。

ブラジル牛肉輸出業協会(Abiec)は、11月14日付ウェブサイトで「今回の措置はセクターに予測可能性を取り戻させ、両国間の貿易が円滑に機能する環境を整えるものだ」と歓迎した(注1)。ブラジル柑橘(かんきつ)果汁ジュース輸出業者協会(CitrusBR)のイビアパバ・ネト会長も、現地紙「ポデール360」(11月15日付)のインタビューで「10%の関税は企業の利益率を直接圧迫していた」と指摘し、今回の決定に安堵(あんど)感を示した(注2)。同協会によると、米国はブラジル産オレンジジュース輸出の42%を占める重要市場だ。

一方、ブラジル果物輸出業者協会(Abrafrutas)は、プレスリリース(11月17日付)で「改善はされたが、競争力向上には不十分。特に米国向け輸出量2位のブドウが、(この度の発表の)対象外であることは懸念材料」と指摘した。同協会によると、追加関税の影響で2025年第3四半期の対米ブドウ輸出は前年同期比で金額ベース73%減と激減している(注3)。

ブラジルコーヒー輸出者評議会(Cecafé)のマルコス・マトス総合ディレクターも、11月15日付現地紙「グローボ」のインタビューで「競合国にとっては歓迎すべき措置だが、ブラジルの立場は悪化した」との懸念を示した。マトス氏によると、ブラジル産コーヒーの米国向け関税は相互関税と追加関税を合わせて50%だったが、今回の決定で追加関税分の40%は据え置かれた。一方、コロンビアやベトナムなど主要競合国はすでに追加関税の対象外だったため、関税率がゼロになった。「ブラジルは依然として競争できない」と同氏は強調している。

カルロス・ファバロ農相は11月15日付現地紙「グローボ」の記事で、今回の措置を「良いニュース」「対話の再開」と評価している。しかし、トランプ大統領は同記事で11月15日、記者団に対し「当面、これ以上の新たな関税引き下げは必要ない」と述べており、残る追加関税の撤廃は見通せない状況だ。

(注1)牛肉は、IEEPAに基づく10%の相互関税の対象外となったが、米国が7月30日に発表した、IEEPAに基づく40%の追加関税措置は継続している。

(注2)オレンジジュースは、IEEPAに基づく40%の追加関税の対象外だったため、市場アクセスは維持されていたが、10%の追加関税は維持されていた。今回の措置により、追加関税は0%となる。

(注3)今回の大統領令により、マンゴーやバナナなど多くの果物は、10%の相互関税の対象外となったが、40%の追加関税は維持される。ブドウについては引き続き、10%の相互関税と40%の追加関税を合わせて50%の追加関税が適用されている。

(エルナニ・オダ、中山貴弘)

(ブラジル、米国)

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