高騰する公共料金が家計を圧迫、背景に米電力市場の構造的課題やAI需要の増大
(米国)
ニューヨーク発
2025年11月21日
米国のシンクタンク、センチュリー財団は11月17日、米国における光熱費高騰に関するレポートを発表
した。それによると、2022年3月~2025年6月で、1世帯当たりの光熱費の平均額は35%増加した。これに伴い、公共料金の平均滞納額も32%増加しており、光熱費の高騰は家計に重い負担となっている。
トランプ政権2期目の最初の6カ月間で、公共料金を滞納する世帯数は約11万7,000世帯に上るという。2025年6月時点で、約1,400万もの人々は支払いが遅れており、債権回収業者による回収が必要なほど深刻な債務を抱えている。
特に有色人種のコミュニティへの影響は大きく、2025年6月時点で、黒人世帯の10.8%が公共料金の支払いを滞納しており、白人世帯の滞納率(3.6%)の約3倍に達している。滞納がある世帯のうち、黒人やアジア系消費者の平均延滞残高が約900ドル(白人では750ドル)と最も高額だった。
こうした公共料金の高騰には、複合的な要素が絡み合っている。米国の電力市場では、規制の不十分な独占企業による消費者への年間50億ドルもの過剰請求が行われている。また、電力会社は設備投資に基づいて利益を得る仕組みになっており、効率改善やコスト削減よりも、新たな設備投資が優先される傾向にあり、結果として電力輸送の効率改善への投資が不足している状況だ。さらに、人工知能(AI)データセンターの急増や、それに伴うエネルギー需要の増加が、家庭の光熱費を押し上げている。加えて、トランプ政権は再生可能エネルギーの普及を妨げ、低所得層向けの支援制度を廃止するなど、光熱費の上昇に拍車をかけているという。
ドナルド・トランプ大統領は公約で、ガソリン価格を1ガロン(1ガロン=約3.8リットル)当たり2ドル以下にするとしていたが、全米自動車協会(AAA)によれば、ガソリン価格は1ガロンあたり3.1ドル(11月20日付)で公約とは大きな隔たりがある。
ホワイトハウスは、公共料金の値上がりについて、連邦政府の直接的な管理外にある市場や州レベルの決定が原因であるとの見解を示している。特に再生可能エネルギーを優先する民主党主導の州では、エネルギーコストがより高くなっていると主張している(ニューズウィーク11月17日、注)。
(注)ドナルド・トランプ大統領は、インフレへの対処を中核とする選挙公約を掲げ、就任初日から国民の物価を引き下げるとする包括的な公約を打ち出していた。ただし、物価は現在も高止まりしており、トランプ関税がインフレ圧力を強めているとみられる(2025年10月28日記事参照)。トランプ大統領は11月14日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、現政権下では、バイデン前政権時よりも物価とインフレ率がはるかに低くなっていると主張した。ガソリンやエネルギー価格の低下が物価下落に大きく貢献しているとも述べ、現政権下での物価上昇を否定する姿勢を維持した。
(樫葉さくら)
(米国)
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