カナダ政府「2025年度予算」発表で、経済自立と成長を加速
(カナダ、米国)
トロント発
2025年11月14日
カナダ政府は11月4日、財政支出計画や経済見通しなどを示した2025年度予算「カナダ・ストロング」を公表
した。
マーク・カーニー首相は新予算について、「単一の貿易相手国への依存から脱却し、世界的なショックにも強い自立型経済への転換を目指す計画」と説明している。今後5年間で1兆カナダ・ドル(約111兆円、Cドル、1Cドル=約111円)の投資を促進し、経済成長の強化を後押しする狙いだ。
2025年度予算は、次の5つの章に整理している。
【第1章:より強靭(きょうじん)なカナダ経済の構築】
戦略的インフラへの投資、規制の近代化、人工知能(AI)やクリーンテックといった重要技術の導入に注力する。600億Cドル超の投資総額を見込む第一弾の主要プロジェクトは次のとおり。
- LNGカナダ第2期(ブリティッシュコロンビア州):世界第2位の液化天然ガス(LNG)施設に規模拡張。
- ダーリントン新型原子力プロジェクト(オンタリオ州):G7初の小型モジュール炉(SMR)として稼働予定(2025年5月14日記事参照)。
- コンテクール港拡張(ケベック州):モントリオール港の処理能力を60%増強し、貿易ルートの多様化と数千人単位の雇用創出。
- マキルベナ・ベイ銅鉱山(サスカチュワン州):カナダ初のネットゼロ銅プロジェクトで、銅と亜鉛の世界的な供給国としてのカナダの地位を強化。
- レッドクリス鉱山拡張(ブリティッシュコロンビア州):銅生産量15%増加と排出削減。最大で1,800人の雇用創出。
今後のプロジェクトとして、オンタリオ州とケベック州を結ぶアルト高速鉄道(2025年2月28日記事参照)、重要鉱物開発、大西洋洋上風力、マニトバ州チャーチル港の機能向上、アルバータ州の二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)、北極圏経済安全保障回廊の開発などを挙げた。
また、在カナダ企業の設備投資を促進するため、新税制優遇措置「生産性スーパー控除」の導入方針を示した。企業が製造・加工機械、クリーン技術設備、ゼロエミッション車両などを取得した際に、その投資額の最大100%を初年度に即時償却できる。企業が設備投資コストを早期に回収できるようにし、投資ハードルを下げる狙いだ。
【第2章:依存からの脱却と持続可能な経済構築】
カナダの主要産業と労働者を支援する産業戦略として、インセンティブや特定業界向け資金調達支援を提供する。また、今後10年間で米国以外への輸出の倍増を目指し、貿易多様化回廊基金を創設。港湾の拡張、鉄道整備、北部インフラ開発など、貿易・輸送インフラの整備に7年間で50億Cドルを拠出する。
【第3章:カナダ国民の力を引き出す】
全国的な住宅建設の加速、生活費の負担軽減、カナダの価値観とアイデンティティーの強化を通じて、国民生活の質の向上を目指す。
【第4章:カナダの主権と安全保障の強化】
地政学的リスクや安全保障環境の変化に対応し、国家の主権と国民の安全を守るカナダの防衛産業を強化。
【第5章:効率的で効果的な政府の実現】
公共サービスの近代化と財政の健全化を目指し、無駄の削減と資源の再配分を通じて、今後3年間で連邦の運営予算を均衡化する。
カナダではこれまで連邦予算は春に発表し、秋に「経済声明」を発表してきたが、今回から秋に予算を発表するサイクルへと移行した。これには、財政運営の予測可能性と戦略性を高める狙いがある。経済状況を反映した現実的な政策立案が可能となることから、公共投資の効果も高まると期待される。
(井口まゆ子)
(カナダ、米国)
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