欧州、米中との競争を念頭に、量子分野で日本などとの協力深化目指す
(デンマーク、EU、日本)
デュッセルドルフ発
2025年11月27日
欧州量子技術会議(European Quantum Technologies Conference 2025、以下EQTC)が11月10~12日の3日間、デンマークの首都コペンハーゲンで開催された。EQTCは、欧州委員会の量子分野の研究促進イニチアチブである量子フラグシップ(注1)の下で開催される欧州最大級の量子技術イベントで、同イニシアチブの成果を示す場所であるとともに、研究者、産業界、政策立案者が一堂に会し、量子技術の最新動向と応用を議論する場となっている。会議では、科学セッション、産業展示、政策対話が行われ、量子コンピューティング、量子通信、量子センシングなど幅広い分野を網羅する。
開会式にはデンマーク国王が出席したほか、招待講演として、欧州委のヘンナ・ビルックネン欧州委員会執行副委員長(技術主権・安全保障・民主主義、デジタル・先端技術担当)らが登壇した。多くの登壇者が欧州各国の政策および産業の分断化に懸念を示しつつ、欧州内のコーディネーションや強みに応じた役割分担、欧州単一市場を構築することの重要性を訴えた。加えて、欧州の倫理観に基づきスピード感を持って量子技術の発展に寄与することが重要であると提言し、さらなる欧州への投資の誘致が重要と指摘した。特に、米国と中国との競争を意識した発言が目立ち、その一方で、欧州域外の友好国との協調が鍵であるとした。この点は、2025年7月に欧州委が発表した「欧州量子戦略
」(2025年7月4日記事参照)(注2)でも言及されており、協力を進めている国として、韓国、カナダとともに日本が挙げられている。
メインステージの様子(ジェトロ撮影)
量子分野で注目されるスタートアップ、スパロー・クォンタムのピーター・ローダール最高品質責任者(CQO)(左から2番目)が科学技術からの起業セッションで登壇(ジェトロ撮影)
日本からは、産業技術総合研究所(AIST)の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)が出展し、同センターの持つ卓越した量子コンピュータのインフラストラクチャーを紹介し、来場者を引き付けた。また、量子技術の発展と社会実装を目指す関連企業で構成される「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」も日本から本会議に参加、デンマ-クをはじめとした欧州各国関係者との協力深化についての議論をすすめた。Q-STARの岡田俊輔実行委員会委員長は、「現地のエコシステムを見て、やはりデンマークは重要なパートナ-であると再認識した」と語った。なお、会議に先立つ10月27日に、Q-STARはコペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所を拠点とする量子コンピュータ研究開発機関(Novo Nordisk Foundation Quantum Computing Programme、NQCP)と、産業主導による組織間連携強化を目的とした覚書を締結した。NQCPはこの枠組みを通じ、日本の強みである先端半導体プロセス、パッケージングなどの技術を生かし、量子コンピュータの開発を加速させることが可能としている。
(注1)欧州委が2018年に立ち上げたイニシアチブで、10年間を超える期間にわたり10億ユーロ超の資金を補助する。公募している補助プログラム
や補助対象プロジェクト
はウェブサイトで確認できる。
(注2)欧州量子戦略で定められた優先事項を実現するための欧州量子法は2026年第2四半期の採択が予定されており、2025年12月15日まで意見公募を行っている。
(安岡美佳、福井崇泰)
(デンマーク、EU、日本)
ビジネス短信 4991d7b10c034d41




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