欧州委、2030年までに量子技術のリーダーとなるべく、戦略提示
(EU)
調査部欧州課
2025年07月04日
欧州委員会は7月2日、2030年までに欧州を量子技術分野のグローバルリーダーとする「量子戦略」を提示した。量子技術の研究開発から産業応用までを包括的に支援し、欧州の技術主権と競争力を強化することを目的とし、欧州の強みを強調しつつ、レジリエントで自立した量子エコシステムを育成することで、欧州を量子大国へと転換することを目指す。
戦略の焦点となる5つの分野は次のとおり。
- 研究とイノベーション:EUと加盟国が共同で「Quantum Europe Research and Innovation Initiative」の立ち上げ。基礎研究の支援、公共と産業部門の応用開発の促進。
- 量子インフラの整備:最大5,000万ユーロの公的資金で、量子設計施設と6つの量子チップ試作ラインを設置。科学的プロトタイプを製品化へ。
- エコシステムの強化:スタートアップやスケールアップ企業への投資、サプライチェーンの確保と量子技術の産業化。
- 宇宙・安全保障と防衛分野への応用:欧州宇宙機関(ESA)との協力による宇宙分野の量子技術ロードマップの開発、欧州兵器技術ロードマップへの貢献。
- 量子スキルの育成:EU全域での量子技術クラスターネットワークの拡大、2026年に欧州量子スキルアカデミーを設立。
量子技術分野は、2040年までにEU全体で数千の高度なスキルを要する雇用を創出するとともに、世界規模で1,550億ユーロを超える価値を生み出すと予想されている。
EUと加盟国はこれまで、量子技術とエコシステムに多大な投資を行ってきた。2018年に開始したEUの「量子技術フラッグシップ」は、量子コンピューティング・量子シミュレーション・量子通信・量子センシングと計測の支援を目的とし、10億ユーロの予算を拠出。2019年には政府機関や重要インフラの通信を量子レベルで保護することを目的とし、サイバーセキュリティー戦略の柱とする欧州量子通信インフライニシアチブ立ち上げ(EuroQCI)を宣言、ESAと協力し、EU全体をカバーする量子通信インフラの開発に合意した。2023年以降、欧州高性能計算共同事業体(EuroHPC JU)がEU内の8拠点に量子コンピュータのホスティングを実施し、これらの量子コンピュータはEuroHPCスーパーコンピュータと統合され、チェコ、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、ポーランド、ルクセンブルク、オランダに設置される。
欧州委は今後、量子分野のノーベル賞受賞者などを含むハイレベルの諮問委員会を通じて戦略実施に向けた助言を行い、2026年には「Quantum Act(量子法)」の提案を行う予定だ。
(坂本裕司)
(EU)
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