欧州委、農業従事者の世代交代戦略を発表、農業・地域活性化に向けた政策を総動員
(EU)
ブリュッセル発
2025年11月05日
欧州委員会は10月21日、政策文書「農業における世代交代戦略
」を発表した(プレスリリース
)。食料安全保障は広義の安全保障および戦略的自律の根本的要素だが、EUの農業従事者は3分の1が65歳以上と高齢化が進み、次世代の担い手の確保が重要課題となっている。農地取得や資金調達の支援、金融リテラシーやデジタル化も含めた知識・技術の取得などに焦点をあて、就農者向けの支援を拡充し、2040年までに40歳未満の青年農家の割合を現在(12%)の2倍の24%にするとした。
具体的には、就農希望者に対し、最大30万ユーロの起業支援を含む、包括的なスターターパックを提供する。欧州投資銀行(EIB)と協力し、信用保証制度や利子補給制度を策定する。また、農地取得に関し、情報提供だけでなく、関連政策の周知や投機的取引の抑止も目的とする新たなフォーラム「欧州土地観測所」を設け、透明性を高める。青年農家が自国以外の優良事例を学ぶ機会を提供し、異業種との交流を通じ収入の多角化を促す方針も示した。
また、農村地域の医療、交通や住宅分野のインフラ整備、農家の家族の職業訓練・就業機会の創出の必要性を指摘した。2028年以降の共通農業政策(CAP)では、育児・介護中の農業従事者などの代替要員を確保するサービスの財源を確保する。地方の若年人口は減少傾向にあるが、暮らしやすい、働きやすい環境を創出し、定住を促進する。
さらに、多くの高齢農家が十分な年金保障を受けられず、CAPの直接支払いのみが収入源となっていることにより、高齢農家が引退をちゅうちょし、世代交代が進まない一因であると指摘。次期CAP案では年金受給者への直接支払い打ち切りの方針を示しており、加盟国に対し補完的な策を講じるよう要請した。
欧州委は、EU、加盟国や地方自治体の関連政策を総動員し、世代交代を促進する意欲を示した。一方で、2028~2034年の次期中期予算計画(MFF、2025年7月22日記事参照)案では、国家・地域パートナーシップ計画(NRPP)への統合などCAPの制度刷新、予算配分削減を提案している。
欧州青年農業者協議会(CEJA)
は10月21日に声明を発表し、世代交代戦略では加盟国にNRPPの農業関連予算の最低6%を青年農家支援にあてるよう勧告したが、MFF法案には明記がなく、支援策の財源確保の法的裏付けが必要とした。また、欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体COPA-COGECAは同日、同戦略には具体的な農業従事者の所得増加策がなかったと指摘したほか、円滑な事業継承や先進的な事業に的を絞った投資など、関連政策の連携が必要と提言した。
(滝澤祥子)
(EU)
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