持続可能なイノベーションフォーラム2025、気候変動対策で気候テックスタートアップとの連携に注目

(ブラジル)

サンパウロ発

2025年11月17日

ブラジル・サンパウロ市内のルネサンス・ホテルで11月6日、Climate Action(注1)主催の「持続可能なイノベーションフォーラム(Sustainable Innovation Forum)2025」が開催された。国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30、注2)の開催を翌週に控え、気候変動対策に向けた技術革新と企業連携をテーマに、国内外の有識者が議論を交わした。

フォーラムの中で注目を集めたのが、「Innovation in action: advancing scalable and transformative solutions」と題されたパネルディスカッションだった。米国三菱重工業社長兼最高経営責任者(CEO)の石川隆次郎氏、クライメート・コレクティブ創設パートナーのナリン・アガルワル氏、ケンブリッジ持続可能性リーダーシップ研究所のシステムチェンジ部門でエグゼクティブディレクターを務めるエリオット・ウィッティントン氏の3人が登壇した。モデレーターはアースショット賞ポートフォリオ戦略・エンゲージメント部門責任者(注3)のタニヤ・アリタオ氏が務めた。

石川氏は「155年の歴史を持つ企業として、産業と社会の脱炭素化に取り組んでいる」と述べ、米国三菱重工業のScope3排出量(事業者の活動に関連する他社の排出量:サプライチェーン排出量)が約15億トンで、日本一国の排出量を上回る規模だったことを紹介した(注4)。さらに、人工知能(AI)データセンターの電力需要に対応するカーボンキャプチャー技術(注5)の開発や、気候変動分野でスタートアップを支援してきた実績を強調した。

3人の登壇により、クリーンテック分野のスタートアップ支援の重要性があらためて浮き彫りとなった。例えば、インド国内には、約40のクリーンテックスタートアップが存在することが紹介され、限られた資源や環境の中でも創造的に技術革新を進める重要性が強調された。特に、Sense(産業向けエネルギーモニタリング、注6)による排出量32%削減の事例や、Decent Energy(グリッドデータを活用したエネルギー最適化、注7)による分散型エネルギー管理の取り組みが紹介され、技術の実効性と商業化の可能性が注目された。

ウィッティントン氏は、イノベーション拡大に必要な5つの要素として「資本調達」「市場需要」「公共の受容」「技術の安定性」「政策環境」を挙げた上で、「個別の技術革新だけでなく、システム全体の変革が必要」と強調し、政治的二極化(注8)が技術導入の障壁となる可能性にも言及した。

今回のフォーラムを通じて、気候変動対策での技術革新の可能性と、企業、スタートアップ、政策の三位一体による包括的なアプローチの必要性があらためて示された。

写真 持続可能なイノベーションフォーラム2025に登壇した米国三菱重工業の石川氏(中央右、ジェトロ撮影)

持続可能なイノベーションフォーラム2025に登壇した米国三菱重工業の石川氏(中央右、ジェトロ撮影)

(注1)Climate Actionは、気候変動対策に関する国際会議や企業連携を推進する英国に拠点を持つ独立系の国際組織。

(注2)COP30は11月10日からベレン市で開催されている。

(注3)アースショット賞は、地球規模の課題解決を目的に、2020年に英国王立財団によって設立された。詳細は2025年11月10日記事参照。

(注4)三菱重工業のSUSTAINABILITY DATABOOK 2025PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、2021年時点のScope3の排出量は15億7,8348万トンとなっており、同年の日本の排出量11億4,700万トンを上回っている。

(注5)カーボンキャプチャー技術(Carbon Capture Technology)は、発電所や工場などの排出源から二酸化炭素(CO2)を分離・回収し、大気に放出することを防ぐ技術の総称。回収したCO2は地中に貯留するか、燃料や素材などに再利用することで、温室効果ガス(GHG)排出を削減し、脱炭素化を支援する。さらに、AIデータセンターのような高電力消費設備では、電力需要に伴うCO2排出量を抑えるため、再生可能エネルギーの導入と併せて他の排出源で発生したCO2を回収し、実質的に排出量を減らす取り組みも期待されている。

(注6)Senseは、産業向けのエネルギーモニタリング技術で、工場や設備の電力使用をリアルタイムで可視化し、異常検知や効率改善を行う仕組み。エネルギー浪費を減らすことで、CO2排出量削減やコスト低減につながる。

(注7)Decent Energyは、グリッドデータを活用してエネルギー供給と需要を最適化する技術。分散型エネルギー(太陽光や蓄電池など)を統合管理し、電力の安定供給と再生可能エネルギーの利用拡大を実現する。これにより、電力コストの抑制や脱炭素化に貢献する。

(注8)ここで言う政治的二極化とは、自国優先や保護主義的な政策展開が広がり、国際協調が難しくなる状況を指す。こうした自国主義の高まりは、国境を越えた技術標準の統一やサプライチェーンの連携を阻害し、共同研究や知識共有を停滞させるため、再生可能エネルギーや脱炭素技術など国際的な協力を前提とする技術導入に大きな障壁となるとみられている。

(榊原悠生)

(ブラジル)

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