ルコルニュ首相、施政方針演説で年金改革の一時停止を表明

(フランス)

パリ発

2025年10月16日

フランスのセバスチャン・ルコルニュ首相は10月14日、国民議会(下院)で施政方針演説を行い、年金改革の一時停止や、財政健全化、憲法第49条第3項(通称「49.3条」、政府が議会の採決を経ずに法案を成立させることができる憲法条項)の放棄など、今後の政権運営方針を示した。

首相は2023年に成立した年金制度改革(2023年4月20日記事参照)について、2027年の大統領選挙まで適用を停止する方針を表明した。これにより、2028年1月まで年金受給開始年齢の引き上げと保険料納付期間の延長(42年6カ月以上)は凍結される。同措置に伴う財政負担は、2026年に約4億ユーロ、2027年には約18億ユーロと見込まれており、首相は、財政赤字の拡大ではなく、歳出削減による補填(ほてん)が必要と強調した。また、単なる停止にとどまらず、年金制度改革に関わる労使合意を目指す「年金・労働に関する会議」を数週間以内に開催する意向も示した。

議会運営に関しては、分断された国民議会で政府が持続的に政策を遂行するには、野党の意見を尊重する必要があるとし、49.3条の行使を放棄する決断をあらためて表明した。政府は予算案を提示し、議会はそれを審議・修正する自由を持ち、最終的な決定権を有するという責任を担うべきだとも述べ、議会審議と合意形成を重視する姿勢を明らかにした。

2026年予算法案では、財政赤字をGDP比5%未満に抑える方針を堅持し、中小企業向けの減税措置を講じる一方、大企業や富裕層には「例外的な貢献」として増税を実施し、税負担の公平性を図るとした。

ルコルニュ首相の年金改革停止表明を受け、左派「社会党(PS)」のオリビエ・フォール書記長は同日、民放テレビTF1のインタビューで「今週、政府に対する不信任は行わない」と明言した。極左「不服従のフランス(LFI)」と極右「国民連合(RN)」はそれぞれ、内閣不信任決議案を13日に提出しており、16日に採決が予定されている。

フォール氏は「(内閣不信任を受けて)議会を解散しても、人々の生活は変わらない」と述べ、現実的な政治対応を優先する姿勢を示した。一方で、超富裕層への課税(通称「ズックマン税」、注)については、ルコルニュ首相が9月末のTF1のインタビューで導入を否定したが、PSは導入に向けた議論を継続する方針を示した。

(注)フランスの経済学者ガブリエル・ズックマン(Gabriel Zucman)氏が提案したもので、超富裕層に対する最低課税制度。PSは2026年予算法案で、1億ユーロ超の資産に対する2%課税を提案している。

(山崎あき)

(フランス)

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