フランス政府が年金改革公布、受給開始年齢を62歳から64歳へ引き上げ

(フランス)

パリ発

2023年04月20日

フランス政府は4月15日、年金改革が盛り込まれた「2023年社会保障財政修正法」を公布した(公共政策などの情報サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる。2023年9月1日から2030年まで受給開始年齢を毎年3カ月ずつ引き上げるとともに、満額支給に必要な拠出期間を2027年までに段階的に43年に引き上げる。1968年生まれ以降の世代の受給開始が64歳、1965年生まれ以降の世代の拠出期間が43年となる。

若い時から就労を開始した労働者には早期退職を認め、一定の条件を満たした場合には満額支給に必要な拠出期間を最長43年とする。就労開始が、16歳前の者は58歳から、16歳~18歳前の場合は60歳から、18歳~20歳前の場合は62歳から、20歳~21歳前の場合は63歳から退職を可能とする。

過酷な労働に従事する者に早期退職を可能とするポイント制度「重労働予防個人口座」(2016年7月26日記事参照)の対象者のために、職業の不適応防止や職種変更のための「職業的消耗防止のための投資基金」を設立する。

出産や養育を理由に加算された拠出期間(注1)があり、63歳で退職可能な女性が就労を継続した場合、四半期ごとに1.25%の増額とし64歳で年金の受給額を最大5%増額する。

拠出期間を満たす年金支給の最低保証額を、法定最低賃金(SMIC)の85%、月額税込み約1,200ユーロとし、インフレ率に合わせ毎年改定する。

早期退職などの優遇措置のある「年金特別制度」が適用されてきたパリ交通公団(RATP)、フランス電力(EDF)、フランス銀行(中央銀行)などの新たな就労者には、「年金特別制度」ではなく他の民間企業と同様の一般制度を適用する。

同法は、エリザベット・ボルヌ首相の「憲法49条3項」(注2)発動により、採決なしの強行採択で3月20日に成立したが、改革に反対する野党議員らが合憲性の審査を求めて憲法評議会へ付託していた。

憲法評議会は4月14日、高齢者の雇用維持対策としての高齢労働者数の指数公表義務(2023年1月18日記事参照)や「シニアCDI(無期雇用契約)」の措置の導入などを「社会保障財政とは直接関係がない」として違憲と判断し、違憲となった条項を削除の上で公布された。

労組は、「これで終わりではない」と題し、今後も年金改革に反対するデモやストを支持する旨のコミュニケを共同で発表し、5月1日(メーデー)のデモへの参加を呼びかけている。

(注1)女性には、子供の養育または養子縁組に最低2四半期の拠出期間の加算が保証されている。現在、子供1人につき8四半期(出産または養子縁組のための4四半期と養育のための4四半期)が親に付与される。養子縁組や養育は両親の間で振り分けることができ、子供の養育に係る4四半期を父親に付与することもできる。

(注2)首相は、閣僚会議の審議の後、政府の責任のもとに、国民議会の採決なしに法案を採択することができると規定。24時間以内に内閣不信任が提出されなければ法案は成立、内閣不信任案が可決されれば、法案は不採択となり政府は辞職する。

(奥山直子)

(フランス)

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