アヌティン首相、国会で所信表明演説を実施
(タイ)
バンコク発
2025年10月03日
タイのアヌティン・チャーンウィラクン首相は9月29日、国会で所信表明演説を行った。4カ月後に議会の解散を予定している少数与党政権(2025年9月26日記事参照)として、国家が現在直面している諸問題に対し、経済、安全保障、社会問題、自然災害と環境の4分野など、15項目の重要政策について、迅速に取り組むとした。概要は次のとおり。併せて、カンボジアとの国境問題に関する国民投票の実施と憲法改正の支持を表明した。
【経済分野】
(1)国民の日常生活における収入増と支出削減。そのために、景気刺激策である「コンラクルン」事業(注)を実施。また、小規模事業者や農家、地域社会が安定した収入を得る機会、競争力を高める。
(2)債務問題の解決。個人債務を1人当たり最大10万バーツ(約46万円、1バーツ=約4.6円)まで支援し、中小企業に対しては、1社当たり最大100万バーツまでの流動性を供給する。
(3)国民の貯蓄機会の拡大。すべての国民が政府債券を購入し、利子収入を得られるようにする。
(4)観光における信頼回復。観光地としての安全性と利便性を高める。
(5)貿易戦争の影響を解消。外務省、商務省、タイ通商代表で構成する「チームタイランド」を設置し、自由貿易の強化、新規市場開拓を実施。また、米国関税措置で大きな打撃を受けた中小企業や農家を支援し、原産地偽装やダンピングを防止する。
【安全保障分野】
(6)タイ・カンボジア間の国境紛争の平和的手段による早急な解決。
(7)南部国境県の問題の迅速な解決。
【社会分野】
(8)違法賭博の徹底した取り締まり。賭博事業を含む総合娯楽施設を支持しない。
(9)法の支配を保持。国家公務員の重大な違反行為に厳格に対処。
(10)汚職と不正行為の断固とした排除。国民や国際社会からの信頼を高める。
(11)仏教および他の宗教の保護・擁護。
【自然災害と環境分野】
(12)警報機器の設置と災害警報ネットワークの迅速な開発。被災者を迅速に救済し、復旧させる。
(13)太陽光などのクリーンエネルギーの利用促進など低炭素社会の推進。2050年までに温室効果ガス排出ネットゼロを目標として宣言。また、カーボンクレジット取引市場の設立、気候変動対策法の早急な制定を推進。
【行政・法制度改革分野】
(14)デジタル政府の迅速な開発を推進。国民の利便性向上に資する法案を提出する。
(15)法律・規則の迅速な改革を推進。国民や事業に不要な負担や障害となる法律や規則を撤廃する。
また、教育、保健医療、文化などの分野でも国家戦略と国家基本方針の推進を行うほか、予算執行に関しては、財政規律の枠内で経済安定を強化し、長期的に国の公的債務の負担を軽減するとした。
(注)コンラクルン事業とは、新型コロナ禍の景気刺激策として実施された、コーペイメント事業で、今回、消費刺激策として、支出に対して政府が50%を補助する政策(2022年1月28日記事参照)。
(野田芳美、ピンラウィー・シリサップ)
(タイ)
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