温室効果ガス排出ネットゼロ目標15年前倒し、アヌティン政権
(タイ)
バンコク発
2025年10月09日
タイのアヌティン・チャーンウィラクン首相は9月29日、国会で行った所信表明演説で、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出ネットゼロを目標とすると宣言した(2025年10月3日記事参照)。タイ政府は、2021年時点では、2065年のネットゼロ達成を目標としていたが、これを15年前倒すこととした。
サイアム商業銀行のエコノミック・インテリジェント・センターのレポートによると、目標の15年前倒しは、タイ産業の未来を再構築する重要な分岐点であり、政府は「GHG削減は選択肢ではなく、未来におけるタイ経済の生存の道である」と明確なメッセージを発信したとしている。
その上で、同レポートでは、GHG削減に貢献する産業として、関連商品やサービスの需要増に伴い成長が期待される次の産業を挙げた。
- 再生可能・クリーンエネルギーのサプライチェーン産業
- エネルギー効率向上関連産業
- 電気自動車(EV)のサプライチェーン産業
- 廃棄物管理産業
- バイオベース素材産業
- 低炭素燃料産業
- 二酸化炭素回収・貯留技術産業
一方、石油・ガス、化石燃料発電、鉄鋼、セメント、化学、内燃機関車などの高排出産業は、従来よりも短い期間での対応が求められると指摘した。
また、世界銀行が2025年10月3日に発表したタイに関する「気候開発報告書」によると、気候変動の影響は「適応」に向けた確たる取り組みがなければ、2050年までに、タイのGDPを7~14%減少させる可能性があると指摘した。同報告書では、脱炭素化に向けて、カーボンクレジットに加えて、それを補完する改革と投資が必要とした。具体的には、電力部門の市場改革、EVの充電インフラへの投資、大型車をバイオ燃料に移行するインセンティブなどを推奨している。
世界銀行のメリンダ・グッド・タイ・ミャンマー局長は、「タイの将来の競争力は、経済活動あたりのGHG排出量を削減し、より環境に優しい商品やサービスに生産をシフトできるかにかかっている。これらの措置によって、新しい産業や質の高い雇用を創出し、低炭素世界においてタイを投資家にとって魅力的な市場に維持できる」と述べた。
(野田芳美、ピンラウィー・シリサップ)
(タイ)
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