フェストアルピーネ、CO2ゼロ製鉄を目指す「Hy4Smelt」プロジェクト始動
(オーストリア、日本)
ウィーン発
2025年10月01日
オーストリアの鉄鋼大手フェストアルピーネは9月25日、リンツ市にある本社工場で、革新的な製鉄技術の実証施設「Hy4Smelt」の起工式を行った。総投資額は約1億7,000万ユーロに上り、2027年に予定している稼働開始から2030年までの研究期間を通じて、二酸化炭素(CO2)排出ゼロの鉄鋼生産技術の確立を目指す。
フェストアルピーネは2023年3月、同社の脱炭素化戦略「グリーンテック・スチール」に従って、製鉄の脱炭素化に15億ユーロを投資すると発表した(2023年3月29日記事参照)。Hy4Smeltは「グリーンテック・スチール」戦略の中核を担うプロジェクトで、同国最大の気候保護研究事業と位置づけられている。同社は2029年までにCO2排出量を2019年比で最大30%削減する計画で、これは同国全体の年間排出量の約5%に相当する。
技術的には、金属技術大手で三菱重工グループのプライメタルズテクノロジーズが開発した水素ベースの直接還元技術HYFORと、再生可能エネルギーで稼働する炉スメルター(Smelter)を組み合わせることで、従来の高炉に代わる持続可能な製鉄プロセスを構築する。HYFORはペレタイジングなどの塊成化工程を必要とせず、低温還元を可能にする点が特徴だ。還元された鉄はスメルターで溶融され、スラグを分離しながら、高品質な溶銑や銑鉄を生成する。
このプロジェクトには、技術開発を担うプライメタルズテクノロジーズのほか、原料供給と技術支援を行うリオティント、共同出資者として三菱商事も参画している。
オーストリア政府は「産業のトランスフォーメーション」と「ツイン・トランジション」というプログラムで、実証プロジェクトへの投資、運営のために資金を提供している。さらに、EUは「クリーンスチールパートナーシップ」「クリーン水素パートナーシップ」を通じて、このプロジェクトを支援している。
フェストアルピーネの最高経営責任者(CEO)のヘルベルト・アイベンシュタイナー氏は「Hy4Smeltの建設開始はグリーン鋼鉄生産で当社の技術革新とリーダーシップをあらためて証明するものだ」と述べ、持続可能な製造業実現への強い意志を示した。
ボルフガング・ハットマンスドルファー経済・エネルギー・観光相はSNSのリンクトインで、「100%グリーン水素を使用した鉄鋼生産を可能にする世界初の産業規模の実証プロジェクトのHy4Smeltは、フェストアルピーネの画期的な成果だ。オーストリアは工業国ということだけでなく、テクノロジーリーダーでもあることを証明している」と投稿した。
(エッカート・デアシュミット)
(オーストリア、日本)
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