欧州委、EU版NISA導入を加盟国に勧告、EU企業への投資拡大による競争力強化を狙う

(EU)

ブリュッセル発

2025年10月03日

欧州委員会は9月30日、「貯蓄・投資口座(SIA)」を導入するよう加盟国に対し勧告した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。SIAは、日本のNISA口座に相当する個人投資家向け証券口座だ。現状では、域内での導入は一部の加盟国に限られていることから、全ての加盟国に対し今回の勧告に沿った導入を推奨する。欧州委は、EU市民の「貯蓄から投資へ」の転換を促進し、個人投資家による投資が拡大すれば、今後10年間でEU企業への投資は1兆2,000億ユーロ以上増加する可能性があると試算しており、これにより競争力強化につなげたい考えだ。

今回の勧告は、NISAを含むEU域内外で導入された個人投資家向けの投資促進制度のベストプラクティスに基づいており、シンプルかつアクセスしやすいSIAの枠組みを加盟国に提示する。欧州委は、個人投資家を引きつけるべく、最も有利な税制上の優遇措置を提供すべきとしており、税控除、税免除、課税の繰り延べ、SIAで得られる収益や保有資産の価値に対する一律の税率の適用などの提供を推奨する。

SIAの対象については、株式、債券、EU版投資信託であるUCITSを含める一方で、特にリスクの高い複雑なデリバティブ商品や金融商品として認定されていない暗号資産は除外すべきとする。投資先については、EU経済に資する金融商品を提供することを強く推奨するものの、ポートフォリオの分散はリスクの軽減に不可欠であることから、EU企業関連の金融商品に限定するような地理的な制限は想定していない。この点に関し欧州委は、個人投資家には一般に強い自国志向が認められることから、地理的な制限がなくとも投資の増加分の多くは自国および域内の企業に向かうとの見方を示している。

深まらない貯蓄・投資同盟に向けた議論

EUの資本市場を統合する「貯蓄・投資同盟」の実現に向けた動きは、遅々として進んでいない。この議論は10年以上前から行われているものだが(2024年4月23日記事参照)、2024年以降、競争力強化の文脈において、域内の資金調達環境の改善策として再度注目を浴びている(2024年4月25日記事参照)。ただし、欧州委が新たな戦略(2025年3月28日記事参照)を発表したほかは実質的な進展はなく、今回も加盟国への法的義務を伴わない「勧告」となった。欧州委は、法案を提案して加盟国間の意見集約に時間を費やすより、勧告に基づき実行する意思のある加盟国から実行すべきとの立場を示しており、加盟国間の溝は依然として深いとみられる。

(吉沼啓介)

(EU)

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