EU首脳、競争力強化策を議論、資本市場同盟の実現へ意欲を示す

(EU)

ブリュッセル発

2024年04月23日

欧州理事会(EU首脳会合)は4月17~18日、ブリュッセルで特別会合を開催し、総括を採択した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ウクライナ支援や緊張が高まる中東情勢などの外交問題を議論したほか、EUの競争力強化について最も多くの時間を費やして議論した。EUでは米国や中国に対する競争力の停滞が指摘されており、欧州理事会は、2024年から2029年までの次期欧州委員会の優先事項を規定する「戦略的アジェンダ」において、競争力強化を重視することで合意している(2023年10月10日記事参照)。今回の総括では、域外国との格差を埋めるためには、従来の政策を転換し、新たな「欧州競争力ディール」政策が必要だとした。2024年6月に採択が見込まれる次期「戦略的アジェンダ」で、どこまで具体的な方針を示せるかが注目される。

今回の特別会合で特に議論を呼んだのは、「資本市場同盟」の在り方だ。競争力強化には巨額の民間投資が求められるが、域内での資本の自由な移動が進んだとはいえEUの資本市場はいまだ加盟国ごとに分断されており、企業の資金調達における障害となっている。このため、域内の資本市場を統合する資本市場同盟の重要性は以前から指摘されてきた。一方で、加盟国間の相違を埋めるための政治的原動力が十分になく、資本市場同盟の構築に向けた議論は過去10年近く進展してこなかった。

総括では、加盟国ごとに異なる破産制度、ビジネス環境、域内の資本市場の監督に関し、加盟国間での調和や収れんに向けた取り組みを進めると明記した。ただし、現地報道によると、総括の草案にあった法人税の調和やEUレベルでの監督権限の強化に関する文言は、一部の加盟国の反対により削除された。欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は記者会見で、加盟国間に多くの相違があることを認めつつ、実質的な前進はあったと強調。資本市場同盟の構築は、巨額の民間投資の呼び込みを期待できるとして、EU版の米国インフレ削減法になりうるとの見解を示した。

資本市場同盟に関しては、実現に向けた政策の検討を、EU理事会(閣僚理事会)が欧州委とともに進めるとしており、6月の欧州理事会で再び議論される予定だ。

(吉沼啓介)

(EU)

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