短期的予測は上方修正も、低迷続く世界経済、IMF経済見通し
(世界)
調査部国際経済課
2025年10月22日
IMFは10月14日、最新の「世界経済見通し」(英語、日本語
)を発表した。世界経済の成長率(実質GDP伸び率)について、2025年を3.2%、2026年を3.1%と予測した(添付資料表参照、注)。7月に発表した前回見通し(2025年7月31日記事参照)と比較して、2025年は0.2ポイントの上方修正、2026年は横ばいとなった。IMFは2025年予測の上方修正の要因として、世界経済が貿易摩擦に段階的に適応しており、極端な高関税の一部がその後の交渉によって緩和されたことを挙げた。ただし、今回の予測は、米国の関税政策が世界経済に具体的な影響を与え始める前(2025年1月)の予測(2025年3.3%、2026年3.3%)を依然として下回っているほか、2025年上半期に経済活動を支えた米国関税導入に伴う貿易や投資の前倒しといった一時的なプラス要因の影響は薄れている。
米国の2025年の成長率は2.0%と予測している。実行関税率の低下や、減税や歳出削減、債務上限引き上げなどをまとめた「大きく美しい1つの法」による財政刺激、金融環境の緩和により、4月の見通しから改善した。中国の2025年の成長率は4.8%と予測し、貿易の前倒しと2025年の財政拡大に支えられた比較的堅調な国内投資が関税を理由とした不確実性の高まりを相殺する。世界貿易の不確実性の高止まりは今後、(1)2025年11月まで延長されている米中間の追加関税の停止状況、(2)関税賦課の法的根拠としての国際緊急経済権限法(IEEPA)の適用に関する米国内の法的手続きという2点の進捗の影響を受けるとしている。世界のインフレ率は減速し続ける見込みだが、国によるばらつきがある。米国ではインフレ目標を上回り、リスクも上振れする可能性がある一方で、残りの地域では、インフレが抑制される方向にある。
世界経済は引き続き下振れリスクにさらされている。不確実性の長期化や、保護主義の拡大、移民政策の厳格化による労働供給のショックは成長を阻害しかねない。IMFのピエール・オリビエ・グランシャ主任エコノミストはブログ(英語、日本語
)で、「関税の急上昇をきっかけとしたショックは、世界の経済成長に一切影響を与えなかったと結論付けるのは早計で、不適切でもある」とし、下振れリスクの優勢を強調した。ただし、世界経済を押し上げる要件として、より明確で安定した2国間・多国間の貿易協定の締結、人工知能(AI)による投資の押し上げを挙げた。また、各国政府に対して、民間企業がイノベーションを起こすことができる環境の整備が必要と述べた。
(注)今回のIMFの予測は、9月初旬時点で発表・実施済みの関税に基づく。これらの措置については、明示的な期限が設定されている場合でも、無期限に継続すると仮定している。つまり、期限付きの高関税の適用停止措置の場合は期限後も停止のままと仮定している。
(板谷幸歩)
(世界)
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