世界経済成長率は上方修正も、不確実性が依然として影、IMF世界経済見通し
(世界)
調査部国際経済課
2025年07月31日
IMFは7月29日、最新の「世界経済見通し(改定版)」(英語、日本語
)を発表した。世界経済の成長率(実質GDP伸び率)について、2025年を3.0%、2026年を3.1%と予測した(添付資料表参照)。2025年4月に発表した前回見通し(2025年4月24日記事参照)と比較して、それぞれ0.2ポイント、0.1ポイントの上方修正となった(注)。IMFは上方修正の要因として、関税引き上げ前の輸入の前倒しに伴う世界貿易の増加や、前回見通しで想定されたよりも低い実行関税率、ドル安による金融環境の改善、一部の主要国における財政拡大を挙げた。
主要国・地域別では、2025年の米国の成長率は1.9%の見通し。関税率が想定よりも低くとどまったことや、金融情勢の緩和が影響し、前回予測よりも0.1ポイント上方修正された。2026年の成長率は2.0%(前回比0.3ポイントの上方修正)と見込まれ、「大きく美しい1つの法案法(OBBBA)」(2025年7月4日記事参照)における財政パッケージにより、短期的な押し上げ効果があるとした。ユーロ圏は、2025年を1.0%(前回比0.2ポイントの上方修正)と予測した。貿易の前倒し効果に加え、アイルランドでの新工場稼働に伴い、米国への医薬品輸出が大幅に増加したことが同国GDPを押し上げる。アイルランドを除いた成長率は0.9%にとどまる。中国の2025年の成長率は4.8%(前回比0.8ポイントの上方修正)と、2025年上半期の経済活動が予想を上回る成長となったことや対中関税の引き下げ効果が反映された。インドについては、2025年と2026年の成長率がともに6.4%と、堅調に推移すると予測した。
IMFは、2025年の世界のインフレ率を4.2%、2026年には3.6%と前回予測とほぼ変わらず、引き続き減速すると予想した。ただし、国ごとにばらつきが目立つとしている。米国では、関税の影響が消費者物価に徐々に転嫁され、2025年後半のインフレ率に打撃を与え、2026年までインフレ率が目標値の2%を上回ると予想した。
なお、さまざまなリスクは、依然として経済見通しの下振れ要因となっている。IMFは、保護主義的措置の増加や、中東・ウクライナでの地政学的緊張の高まりがもたらす供給ショック、財政の不確実性の影響について警鐘を鳴らす。IMFのピエール・オリビエ・グランシャ主任エコノミストは「予測可能で安定したルール」の必要性を強調し、具体的には、貿易障壁を削減するための公平かつ包括的な協定や中央銀行の独立性の担保といった例を挙げた。
(注)IMFの今回の予測は、米国の実効関税率が17.3%(4月時点の予測では24.4%)、世界の実効関税率が3.5%(同4.1%)とし、執筆時点の政策が恒久的であると仮定している。
(峯裕一朗)
(世界)
ビジネス短信 d6c76adc1d18d0a9