ステランティス、ジープ・コンパス生産をカナダから米国に移転方針、カナダ政府・業界は反発
(カナダ、米国)
トロント発
2025年10月20日
自動車大手のステランティス(本社:オランダ・アムステルダム)は10月14日、今後4年間で米国市場に130億米ドルを投資する計画を発表した(2025年10月17日記事参照)。この一環として、小型スポーツ用多目的車(SUV)「ジープ・コンパス」の生産を、カナダオンタリオ州のブランプトン工場から米国イリノイ州ベルビディア工場に移転する方針を示した。
ブランプトン工場は2023年7月に発表されたバッテリー工場再編に向けて既に操業を停止しており、カナダ連邦政府とオンタリオ州政府はこの再編に、最大150億カナダ・ドル(約1兆6,200億円、Cドル、1Cドル=約108円)の補助金を条件付きで提供することを発表していた(2023年7月10日記事参照)。条件には、ブランプトン工場での生産義務など、カナダ国内の既存のコミットメントの維持が含まれていた。再稼働後は約3,000人の従業員による3交代制のフル稼働により、同社ジープブランドの次世代の電気自動車(EV)製造が予定されていたが、今回の発表により2025年第4四半期(10~12月)の生産開始時期に遅れが生じる可能性がある。
これを受けて、メラニー・ジョリー産業相はステランティスのアントニオ・フィローサ最高経営責任者(CEO)宛てに書簡を送り、米国への生産移転計画に強い懸念を示した。同社が政府との約束に基づいて数十億Cドル規模の業績インセンティブを受けながら、カナダ国民に対する「義務を尊重」しない場合、法的措置も辞さない姿勢を明らかにした。
労働組合ユニフォーは予期せぬ発表に強く反発している。全国委員長のラナ・ペイン氏は、米国のEV規制の不透明さや関税の脅威が北米自動車業界に混乱と不確実性をもたらしていると指摘し、ステランティスに対し契約上の義務を果たすよう強く求めた。また、生産開始遅延の影響は、地域の部品供給業者や関連労働者にも波及する恐れがあると述べた。
カナダ自動車部品製造業協会(APMA)のフラビオ・ボルペ会長も、ステランティスの決定を「臆病な対応」と批判し、カナダの部品サプライヤーによる数億ドル規模の投資を軽視した行為だと非難した。さらに、同社が「(ドナルド・)トランプ氏(米大統領)の意向に屈した」と強く批判した。ボルペ氏はカナダ政府に対して、ステランティスの責任を追及することを求め、「政府が明確な対応を取らなければ、他の自動車メーカーも同様の動きを取る可能性がある」と警告している。
(井口まゆ子)
(カナダ、米国)
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