国際海事機関、ネットゼロ条約改正の採択を1年延期
(英国、米国、世界)
ロンドン発
2025年10月21日
国連専門機関の国際海事機関(IMO)は10月17日、国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出削減を目的とする国際条約改正案、いわゆる「ネットゼロ・フレームワーク(NZF)」の採択について、審議を1年間延期することを決議した。加盟国は今後1年間、合意形成に向けた協議を継続する方針だが、先行きは不透明となっている。
IMO海洋環境保護委員会(MEPC)では、国際海運からのGHG削減目標として「2050年ごろまでに排出ゼロ」の目標に沿い、燃料規制制度とゼロエミッション燃料船などに対する経済的インセンティブ制度(注1)を盛り込んだ海洋汚染防止(MARPOL)条約改正案(NZF)について、2025年4月の第83回会合で基本合意していた。今回の臨時会合(10月14~17日、ロンドン開催)では、このNZFの正式採択が予定されていた。
しかし、米国国務省は10月10日、NZFについて「IMOの提案を断固として拒否する」との声明を発表し、対抗措置としてNZF支持国の船舶に対する入港料金の賦課などを示唆した(2025年10月15日記事参照)。さらに、米国のドナルド・トランプ大統領は16日、自身のSNS上で「『グリーン新詐欺官僚機構』の創設を許さない。米国とともに立ち上がり、明日ロンドンで反対票を投じよ」と投稿し、採択を強く牽制した。
英国海運専門誌「ロイズ・リスト」(10月17日付)によると、米国側の対抗措置発表を受けて、コスト増加への懸念から採択の延期を求める声が相次ぎ、会合は混乱を極めた。米国のほか、サウジアラビアやロシア、中国などが延期案に賛成し、NZF導入を主導してきたEUは採択延期に反対の立場を取った(注2)。ただし、一部のEU加盟国は棄権に回ったと報じられている。
(注1)総トン数5,000トン以上の外航船舶を対象に、GHG排出削減に向けて、使用燃料のGHG強度(エネルギー当たりのGHG排出量)を段階的に規制する制度、およびGHG強度の低い燃料を使用する船舶に報奨金を支給することで、ゼロエミッション燃料船などの導入にインセンティブを与える制度。
(注2)欧州理事会は9月30日にIMOのNZF採択を支持する方針を決定している。
(森詩織)
(英国、米国、世界)
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