米小売業で解雇相次ぐ、消費需要低迷など受け本社機能のスリム化実施
(米国)
ニューヨーク発
2025年10月29日
米国の小売業界では、毎年の年末商戦に向けて、消費増加を見込んで人員を増員・採用する動きが活発になる。しかし、2025年は経済的不確実性の高まりや、継続的なインフレ、運用コストの上昇など、複数の要因によって経営が圧迫されている様子がみられる。消費需要の軟化も見込まれており、企業は相次いで従業員の解雇に踏み切っている。
米国小売り大手のターゲットは10月23日、本社組織に所属する従業員の8%に相当する1,800人を削減する方針だと複数のメディアが報じた。同社の次期最高経営責任者(CEO)マイケル・フィデルケ氏が本社の従業員に送付した書簡で、人員削減計画を発表した。これによると、約1,000人の従業員をレイオフするほか、約800の採用予定枠を取り消す。米メディアによると、ターゲットにとっては過去10年間で最大規模の人員削減となる。対象は主として本社勤務の従業員で、現場の販売員などには影響しないとのことだ。
ターゲットの業績不振が続いている背景には、同社の取扱商品の半分以上が裁量的商品という中、経済的不確実性の高まりなどを受け、消費者が食品や日用品などの生活必需品への支出に重点を置く傾向にあることなどが挙げられる。このほかにも、同社が多様性や公平性、包摂性(DEI)の取り組みを縮小したことに対する消費者離れなどの個別要因や、トランプ米政権の関税引き上げによる仕入価格上昇による収益の圧迫など、複数の要因が業績不振につながっていた(2025年8月25日記事参照)。こうした要因により、ターゲットの売上高や株価は競合他社と比べて劣後しており、ウォルマートの株価は過去5年間で約2.2倍上昇したのに対し、ターゲットは同時期に41%下落している。こうした中、新しいテクノロジーの導入を進めながら、組織をスリム化することで、意思決定スピードを向上させ、収益性の向上を図っていきたい考えだ。
同様に、小売事業者で本社機能をスリム化する動きは複数の企業でみられる。米国アマゾンは10月28日、本社従業員の4%に当たる約1万4,000人を削減すると発表した。人工知能(AI)技術を広範に導入することで、削減する人員を代替する計画だという。ロイター通信によると、削減対象となる従業員は最大3万人に上る可能性があるという。今回の発表は、最終的にはアマゾン史上最大規模の人員削減計画となる見込みだ(CNBC10月28日)。
そのほか、コーヒーチェーン最大手スターバックスも、継続的な業績不振を受け、北米の一部店舗の閉鎖とあわせ、非小売部門の従業員を約900人解雇する計画を明らかにしている。ウォルマートや家電量販店大手ベストバイ、スポーツ用品大手ナイキなど、他の小売業者にも経営見直しの動きがあり、需要低迷とAI導入の進展に伴って、企業構造がより広範に転換する可能性があることを示唆している。
米国の再就職支援会社チャレンジャー・グレイ&クリスマスが発表した9月のジョブカット(人員削減)レポート
によると、小売業者による人員削減数は2025年初から9月までの通算で8万6,233人となり、前年同期の約3倍となった。同社の上級副社長のアンディ・チャレンジャー氏は、年末商戦での採用計画の低調さも指摘しており、小売部門の雇用環境は厳しさを増している。また、同レポートでは、AIや自動化に起因する解雇が2025年初来2万219人に達したと報告している。需要の低迷に伴う人員削減の要求と、AI導入進展の双方が今後、ホワイトカラー層を中心に雇用に影響し得る可能性を示唆している。
(加藤翔一、樫葉さくら)
(米国)
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