米テネシー州のVW工場、ストライキ実施可否を問う組合員投票実施へ
(米国、ドイツ)
アトランタ発
2025年10月27日
全米自動車労働組合(UAW)は10月23日、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)のテネシー州チャタヌーガ工場において、ストライキ実施の可否を問う投票を10月28~29日に実施すると発表
した。
UAWは2023年11月29日に、米国で組合を持たない自動車メーカー13社(注1)で勤務する約15万人の労働者向けに、組合への加入を促すキャンペーンを開始した(2023年12月8日記事参照)。キャンペーンの結果、2024年4月にVWのチャタヌーガ工場でUAW傘下の労働組合結成が可決され、米国自動車大手3社(注2)以外の自動車メーカーの南部の工場で初めて労働組合が結成された(2024年4月23日記事参照)。
UAWは、13カ月以上にわたりVWと交渉してきたものの、雇用保障、手頃な医療保険、生活費上昇に追いつく賃金上昇、職場における尊重と尊厳(注3)の4つの主要分野において、VWからの提案内容が不十分と指摘し、2025年10月15日には4つの主要分野を中心に、14の重要事項を盛り込んだ対案をVWに提出したと述べた。
一方、VWは9月17日、UAWとの交渉で完全な透明性を確保するため、同社の最終提案全文とこれまでに合意済みの全条文を公開
した(注4)。最終提案書には、2029年までの4年間で20%以上の賃上げや割安な医療保険の提供、妥結時の一時ボーナス4,000ドルの支給などが記されている。
VWの提案に対してはチャタヌーガ工場の組合員の間でも意見が割れており、当初は25%の賃上げ予定だった賃上げ幅が引き下げられたので、VWの提案内容が不十分という声がある一方、この最終提案書で署名するようUAWに対して要請する組合員もいる、と報じられている(ローカル3ニュース10月24日)。地元ハミルトン郡の郡政委員のジェフ・エバーソル氏は、「UAWに組合費を支払い、交渉を依頼しているにもかかわらず、チャタヌーガ工場の従業員が意見を表明する場を与えられないことに懸念を抱いている」と述べ、VWの最終提案書に対する妥結の是非を問う投票を開始しないUAWの対応に対し疑念を呈した(ニュースチャンネル9 abc 10月23日)。
UAWは、VWがUAWの提出した対案を受け入れる場合は、組合員に対して批准を推奨する一方、受け入れない場合はストライキ実施の承認投票と必要に応じたさらなる行動の準備を進めるとした。10月28~29日の投票の結果、ストライキ実施の承認を得られた場合、選出されたUAW交渉委員会は必要に応じてストライキを呼びかける権限を与えられるとのことだ。
(注1)対象となった自動車メーカーは、日系のトヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダ、韓国系の現代、欧州系のメルセデス・ベンツ、BMW、VW、ボルボ、米国電気自動車(EV)メーカーのテスラ、リビアン、ルーシッドの13社。
(注2)ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、ステランティス。
(注3)UAWによると、チャタヌーガ工場の組合員は、取得した有給休暇(PTO)を確実に使用でき、懲罰的な薬物検査から保護され、身体的に過酷な業務から回復するための十分な休憩が保障される労働協約を求めているとのこと。
(注4)通常、交渉単位ごとに会社からの提案文書の全文を組合が組合員に共有するが、交渉単位終了後約3週間が経過した時点でも、UAWが同社の提案全文を公開せず、チャタヌーガ工場組合員からの交渉妥結に向けた投票実施要請に対しても、UAWは繰り返し応じていない、とVWは主張している。
(檀野浩規)
(米国、ドイツ)
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