頼清徳総統、双十節式典で演説、台湾社会と防衛力の強靭化強調
(台湾)
調査部中国北アジア課
2025年10月15日
台湾の頼清徳総統は10月10日に開催された双十節の祝賀式典で、各国代表の表敬訪問に応じるとともに、スピーチを行った。総統府の発表によると、海外からはベリーズのフロイラ・サラーム総督、セントルシアのエロール・チャールズ総督をはじめ、約140人の来賓が参加した。日本からは、古屋圭司衆議院議員を団長とする超党派の日華議員懇談会の議員団が参加した。頼総統は「好調な経済を社会全体で享受し、誰一人取り残してはいけない」と述べたほか、「防衛を含む社会全体の強靭(きょうじん)性の強化に向けて、あらゆる努力が必要だ」と強調した。ポイントは次のとおり。
(1)経済政策
台湾への投資を拡大する。台湾企業の域内投資に際して優遇を行う「投資台湾三大方案」(注1)に加え、2025年からは民間資金を公共建設などに導入する「兆元投資国家発展法案」をスタートさせた。公共建設の資金規模を拡大することにより、水道、電気、住居、教育、医療などの基礎インフラを台湾全域で拡充し、「均衡ある発展」を実現する。
国際的な経済貿易協力を深化させる。2025年には英国との間で「貿易強化パートナーシップ協定」の枠組みに基づき、投資、デジタル貿易、エネルギーおよびネットゼロ排出の3分野の協定に調印した。将来的にはより多くの国と経済貿易協力協議を締結するとともに、米国による相互関税に対しては、合理的な税率を獲得していく。
台湾を守る産業の山並みをつくる。人工知能(AI)発展プロジェクトとして「AI新十大建設」を推進し、台湾を世界トップ5のコンピューティングセンターにするほか、量子テクノロジー、シリコンフォトニクス、ロボットの3大基幹技術の研究開発に積極的に投資する。
(2)内政
2025年から始動した「健康台湾深耕計画(2025~2029年)」により、医療環境サービスの全面的な向上を図る。また、若年層に対しては、職業高校の学費免除、私立大学・専門学校への学費補助のほか、「青年100億海外圓夢基金計画」により、15~30歳の青年が海外で活動するプログラムへの補助を開始している。
このほか、年間300億台湾元(約1,500億円、1台湾元=約5円)の賃貸住居費用補助、低所得者への所得税の免税措置も行う。子育て世代に対しては育児手当の引き上げや保育補助を拡充するほか、2026年から出産育児一時金として子供1人の出産につき10万台湾元の補助を支給する。
(3)両岸関係・防衛能力
中国が大国としての責任を果たし、国連総会第2758号決議(注2)と第2次世界大戦に関する歴史文書の歪曲(わいきょく)を停止し、武力や威圧による台湾海峡の現状変更を断念し、ともにインド太平洋地域の平和と安定を守るよう期待する。
防衛費について年内に特別予算案を提出し、2026年度の防衛費はNATO基準でGDPの3%超とし、2030年までにGDPの5%まで引き上げる(注3)。
スピーチする頼清徳総統(日本台湾交流協会提供)
(注1)台湾当局が2019年から実施している「投資台湾三大方案」は、中国への投資実績がある台湾企業の台湾回帰を優遇する「歓迎台商回台(台湾回帰)投資行動方案」に加え、対中投資実績のない大企業や中小企業にも対象を拡大した「根留台湾企業加速投資行動方案」「中小企業加速投資行動方案」の3方案からなる(2019年12月25日付地域・分析レポート参照)。期限は2027年まで。
(注2)通称はアルバニア決議。国連で中国の唯一正統な代表は中華人民共和国とする。アルバニアなど23カ国が協同で国連事務局に提出し、1971年10月25日に第26回国連総会で採択された。
(注3)NATO基準を採用することにより、退役軍人への年金給付や海洋委員会海巡署への支出も含まれる。
(江田真由美)
(台湾)
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