10月の米地区連銀報告、経済活動は前回とほぼ変わらず、雇用の減速傾向継続を示唆
(米国)
ニューヨーク発
2025年10月16日
米国連邦準備制度理事会(FRB)は10 月15日、10月の地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表した。8月26日~10月6日のデータに基づく。全体概況では、12地区のほとんどで「前回からほとんど変化がなかった」とした。地区別では、3地区でわずかから控えめの間で増加、5地区で横ばい、4地区でわずかに軟化となっている。また、先行きに関しては、ボストン連銀など一部の地区では見通しの改善を報告する一方、サンフランシスコ連銀やダラス連銀など見通しの悪化を報告している地区も複数ある。地区やセクターによってかなりのバラつきが見られるものの、全体としては、不確実性の高まりが経済活動を圧迫するとの見方は継続しているもようだ。
分野別では、消費は、インフレ削減法(IRA)に基づく電気自動車(EV)税額控除が9月30日で撤廃を受け、EV需要こそ堅調(2025年10月3日記事参照)だったものの、小売商品をはじめ全体としてはわずかに減少した。また、ラグジュアリーな旅行・宿泊など、高所得者層の消費が好調を維持する一方、物価上昇と経済の不確実性の高まりから、中・低所得層では割引・プロモーションを求める傾向が報告されており、所得階層による消費のK字構造(注1)がより鮮明になっている様子も指摘している。
労働市場は、「労働需要は全地区・全セクターでおおむね低調だった」としたほか、「ほとんどどの地区で、より多くの雇用主がレイオフや需要の減少により、人員削減を行った」とした。政府閉鎖に伴って雇用統計の発表が延期されているものの、今回の報告や民間機関が発表している各種統計(注2)の動向などを踏まえると、労働市場の減速傾向は継続していると言えそうだ。また、ミクロレベルでは、人工知能(AI)投資の増加に伴い、人員削減が進んでいることを指摘する声や、雇用主が採用に際し、フルタイムではなく、臨時雇用やパートタイムを好んでいるとの声なども聞かれている。そのため、今後、望む職に就くことがより困難となる可能性を示唆する報告も出ている。一方で、移民政策の厳格化に伴う娯楽・接客業や農業、建設、製造業で労働供給の不足も報告されている。
価格は、「期間中さらに上昇した」とした。関税引き上げに伴う輸入コスト以外にも、保険・医療・専門技術サービスなどのサービスコストが上昇し、投入コストの上昇ペースは加速したもようだ。また、一部からはコーヒーや牛肉など食料品価格の上昇を指摘する声もあった。一方で、消費者への価格転嫁に関してはまちまちで、需要が低迷する中で市場シェアを維持するために転嫁を控えているとの報告も引き続き複数されている。
(注1)富裕層と貧困層の経済格差など経済の二極化が進む状態。
(注2)例えば、調査会社ADPの雇用統計では、9月の非農業部門雇用者数は前月と比較して3万2,000人減と、2カ月連続で減少している。求人検索サイトIndeedが発表しているレポート
でも、9月の求人掲載数の減少(前月比2.5%減)が報告されている。
(加藤翔一)
(米国)
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