過剰生産と中韓からの流入、マレーシア巡る貿易救済措置の不透明性高める

(マレーシア)

クアラルンプール発

2025年10月29日

マレーシア投資貿易産業省(MITI)が2024年10月に立ち上げた貿易救済措置調査管理システム(TRIMA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます2024年10月31日記事参照)によると、同国政府が現在発動中のアンチダンピング(AD)措置は10件で、相殺関税の事例はない。うち9件が鉄鋼に対する措置、残る1件が化学品だ。とりわけ2025年5月にMITIがAD発動を決定したブリキ(2025年5月9日官報公示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))では、日本製品に最大36.8%のAD税を課した結果、同年8月時点のマレーシア向け輸出は前年同期比で99.1%減に激減した。

また、WTOによると、2020年以降にマレーシアが発動したAD措置は計29件で、この83%がやはり鉄鋼向けだった。国・地域別では、中国(27.6%)が最多、次いでベトナム(20.7%)、韓国(17.2%)、台湾(3.4%)、タイと日本(6.9%)と続く。2019年と2020年にそれぞれ6件でピークを迎えた後、2021年は3件、2023年は1件と、足元では減少基調にある。

過剰生産による稼働率低下が貿易救済措置を誘発の恐れ

日本鉄鋼連盟によると、中国からマレーシア向けの鉄鋼製品輸出は増加の一途をたどる一方、輸入単価は下降傾向が止まらない(10月22日聴取)。加えて、特筆すべきは、電気亜鉛めっき鋼板では韓国からの安価な製品流入も目立つことだ。米国による鉄鋼製品の関税率引き上げや韓国内需の低迷により、韓国鉄鋼メーカーが東南アジア向けに安価に製品を輸出しているためだ。

また、マレーシアの構造的課題として、足元の鋼板類の設備稼働率が16%にとどまる中、主に中国企業による投資拡大によって生産能力の拡大が続く点がある。9月29日にMITIが発表した「マレーシア鉄鋼産業ロードマップ2035PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」は、過剰生産への対応として新規設備の建設を一部厳格化する方針を示したが、過剰生産に歯止めが掛かっていないのが実情だ。需要が伸びないまま稼働率低下が続けば、今後、マレーシア政府による貿易救済措置の乱発を引き起こしかねないとの指摘もある。

米国関税の余波でモニタリング強化へ

マレーシア政府は、米国の高関税を回避した安価な製品がマレーシアへ流入しないよう、監視を強める方針を示している。10月16日の国会答弁で、ザフルル・アジズ投資貿易産業相は「高関税の影響を受けた生産者が輸出先を米国から、マレーシアを含む東南アジアに切り替える可能性がある」とし、「貿易の流れが変化して安価な物品がマレーシアに流れ込めば、市場価格を押し下げ、地場産品が不利になる」と、監視強化の背景を説明した。同国は2025年2月、「相殺関税とアンチダンピング法」に基づく関連規則を改定したが(2025年2月5日官報公示PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))、「調査権限や実施体制を強化し、不公正貿易を効果的に取り締まれるようにした」と、ザフルル氏はその意義を強調した。

(吾郷伊都子)

(マレーシア)

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