EUメルコスールFTA案、批准への期待高まる産業界、農業部門は反対姿勢崩さず
(EU、メルコスール)
ブリュッセル発
2025年09月11日
欧州委員会は9月3日、EUメルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)のEUの批准に向けた協定案を発表した(2025年9月5日記事参照)。欧州産業界では、メルコスールとの自由貿易協定(FTA)締結は、輸出拡大、重要原材料の供給元強化やルールに基づく公正な貿易の実現に資すると、批准への期待が高まっている。
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は3日、メルコスールとのFTA発効による恩恵は幅広い産業分野に及び、EU経済の強靭(きょうじん)化と国際競争力強化に不可欠と、強い期待を示した(プレスリリース)。同日発表したFTAの経済効果などに関する文書
では、EUからの輸出品目のうち約91%の関税が撤廃され、EUの輸出企業は1年当たり40億ユーロ以上のコストを節約可能と試算した。
同文書には、製造業やサービス業など10の産業団体および6社がコメントを寄せた。欧州機械・電気・電子・金属加工産業連盟(ORGALIM)は、EUの適合性評価手続きがメルコスール側で受け入れられ、企業の製品検査や認証コストが軽減されると述べた。欧州サービス・フォーラム(ESF)は、対メルコスール輸出で大きな比重を占めるサービス(2023年の輸出額は全体の約34.3%)は今後、デジタル貿易や公共調達分野などでの参入拡大が期待できると述べた。また、蒸留酒業界団体スピリッツヨーロッパや乳業事業者団体・欧州酪農協会(EDA)は、地理的表示(GI)製品をはじめとする特色あるEU産食品の保護や現地産品との公正な競争条件の確保など、輸出拡大にとどまらないメリットがあるとした。
欧州自動車産業(ACEA)は同日付の声明で、FTAの発効により、EU産自動車は最大35%の関税が撤廃され、EUの自動車関連輸出は2040年までに現在の3倍になると、経済効果を強調し、早期批准を要請した(プレスリリース)。グリーン化に必要不可欠なリチウムや黒鉛などの供給元の多角化の観点からも、FTA発効への期待は大きいとした。
メルコスールとのFTAに根強く反対してきた欧州最大の農業協同組合・農業生産者団体のCOPA-COGECAなど農業関連の9団体は同日、共同声明を発表した。メルコスール産品のEU基準の順守に関する従来からの懸念に加え、欧州委が提案したEU側のセンシティブ品目対象のセーフガード措置の実効性に疑問符をつけた。また、欧州委が全加盟国の批准を必要としない暫定貿易協定案(iTA)を提案したことは「民主主義の正当性を欠く」と批判し、反対姿勢を先鋭化させている。
(滝澤祥子)
(EU、メルコスール)
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