欧州委、EUメルコスールFTA案を発表、EUの批准手続きが一歩前進
(EU、フランス、ポーランド、メルコスール、メキシコ)
ブリュッセル発
2025年09月05日
欧州委員会は9月3日、メルコスールとの自由貿易協定(FTA)を含むEUメルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)のEUの批准に向けた協定案を発表した(プレスリリース)。EUとメルコスールは2024年12月、経済や政治面での協力に関する包括的な協定であるEMPAに政治合意した(2024年12月10日記事参照)。今回の協定案は政治合意に基づくもので、今後、EU加盟国と欧州議会による承認を受ける必要がある。かねて一部の加盟国は批准に反対していることから、批准手続きが早期に完了するのか注目される。
欧州委は、EU企業の競争力低下が指摘され、世界的な関税合戦が懸念される中で、EMPAの批准はEUにとって非常に有益だと強調。関税引き下げによりEU産品のメルコスールへの輸出は最大で約4割増加するほか、重要原材料のサプライチェーンの多角化にもつながるとしている。
EMPAにより自国製品の輸出増が期待されるドイツをはじめ(2025年3月25日記事参照)、大部分の加盟国は批准に賛成しているとみられる。一方で、EUの持続可能性やアニマルウェルフェアなどに関する厳格な基準の対象外である、安価なメルコスール産の農畜産品の輸入増による価格競争の激化を懸念するEUの農畜産業界と、そうした声を代弁するフランスやポーランドなど一部の加盟国は批准に反対している。
欧州委は今回、こうした農畜産業界の懸念を払拭すべく、EU側のセンシティブ品目を対象にセーフガード措置を提案。メルコスールからの対象産品の輸入量が前年比で10%以上増加し、かつ当該輸入品の平均価格が同等の国産品の平均価格より10%以上低い場合などに調査を開始し、関税引き下げの一時停止などの措置をとるとしている。
欧州委は今回、早期批准に向けEMPA本体と、本体から通商部分のみを分離した暫定貿易協定案(iTA)を分けて提案した。これは、EMPA本体は、EUレベルでの批准手続きのほか、国会の承認など全加盟国の批准が必要となることから批准に時間がかかる一方で、iTAについては、全会一致ではなく特定多数決によるEU理事会(閣僚理事会)の承認と欧州議会の同意というEUレベルでの批准手続きのみで早期批准が可能なためだ。
現地報道によると、新たなセーフガード措置などの影響もあり、EU理事会における批准反対派加盟国への支持は広がっていない。ただし欧州議会では、最大会派で賛成派の欧州人民党(EPP)グループの一部議員が造反し、他の右派会派の議員と共同で反対声明を発表するなどの動きもみられる。
なお、欧州委は同日、メキシコとの間の自由貿易協定(FTA、2025年2月3日記事参照)の協定案についても発表した。
(吉沼啓介)
(EU、フランス、ポーランド、メルコスール、メキシコ)
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