米小売企業で関税による価格転嫁が徐々に進行、業績に明暗分かれる
(米国)
ニューヨーク発
2025年09月03日
米国小売り大手ウォルマートをはじめとする主要小売企業が発表した2025年第2四半期(5~7月期)の決算(2025年8月25日記事参照)では、新学期商戦の好調さもあり、関税引き上げによる価格転嫁の影響はまだ鮮明になっていないが、価格転嫁は徐々に進行している。今後は影響が顕在化することを見据え、各社は売上高を維持する対策に追われている。
家電量販店大手ベストバイが8月28日に発表した決算報告では、既存店舗の売上高が前年同期比1.6%増と予測外に増加し、伸び率は3年ぶりの成長となった。セールイベントを通じた新学期商戦の好調さと、新型コロナウイルス流行期に購入されたパソコンなどの買い替えサイクルの到来や、任天堂の新型家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ2」の販売が売り上げを押し上げた。ただし、今後については、関税政策が事業と消費者全体に影響を与える可能性を指摘し、通期の既存店売り上げ見通しは前年比0.1%~1.0%増に据え置くとしたが、株価は下落した。同社は商品の大部分を中国から輸入しており、関税関連のコスト増により、既に一部商品の価格を引き上げたと述べた。値上げは「最終手段」だと説明し、今後はメーカーによる販売強化や、店舗に専任のブランド専門家を増員することで新製品の販売に力を入れ、顧客を引き付ける新たな体験を提供することで、需要鈍化に対応する方針だ。
また、カジュアル衣料品ブランドのアバクロンビー&フィッチの決算報告(8月27日)では、減益となったものの、同社の傘下にある10代向けの衣料品ブランド「ホリスター」は、新学期用品の需要の強さにより、売上高が過去最高の前年比19%の増収を記録した。ただし、主要な生産拠点が東南アジアとインドにあることから、予想よりも高止まりする関税率の影響にさらされており、関税による打撃は5月当初の予想だった5,000万ドルから、9,000万ドルに拡大すると見込んでいるという。同社は関税コストの主な対策として、生産拠点のシフトやサプライヤーとの契約・関係強化、営業費用の管理、プロモーションや在庫一掃セールの縮小などによる平均単価の引き上げなどを選択肢として検討しており、利益率を守ることでマーケットからの評価を維持した。
他方、大手ディスカウントチェーンのファイブ・ビローは上記2社とは異なり、関税政策によってむしろ恩恵を受けている。同社が8月27日に発表した決算報告では、売上高が前年同月比23.7%増の10億2,684万ドル、営業利益は26.2%増の5,236万ドルと、いずれも市場予想を上回り、好調に推移した。トランプ米政権が中国からの輸入品に対して非関税基準額(デミニミス)ルールの適用を廃止したことで、低価格帯の商品を提供するという観点で競合する存在だったTEMUなど中国系のECが、従来のビジネスモデルの維持が困難になり、ディスカウント店にとっては価格転嫁しても、相対的に安価な価格を維持できる有利な競争環境に置かれたことが販売を押し上げた。こうした相対的に有利な環境を活用するとともに、ディズニー映画とタイアップしたコラボレーション商品の投入なども合わせて進めることで、顧客の抵抗感の低下につなげることに成功し、マーケットからは高評価を得ている。
(加藤翔一、樫葉さくら)
(米国)
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