8月の米個人消費支出、価格転嫁の抑制が消費を支える
(米国)
ニューヨーク発
2025年09月29日
米国商務省は9月26日、8月の個人消費支出(PCE)を公表した。所得環境は必ずしも良好とはいえないものの、関税引き上げにもかかわらず小売店は消費者への価格転嫁を抑制しているもようで、これを背景として新学期商戦において消費は比較的堅調に推移したかたちだ。
所得関連では、個人所得が名目ベースで前月比0.4%増(前月0.4%増)と市場予測をわずかに上回った。内訳では、雇用者報酬が0.3%増(寄与度0.2ポイント)、所得移転が0.6%増(寄与度0.1ポイント)だった。ただし、雇用者報酬のうち、賃金については、サービス業が伸びる一方で、財部門では減少したと説明されており、労働市場の減速度合いに応じて業種によってまちまちとなっている可能性がある。また、名目個人所得の伸びは堅調なものの、物価上昇が影響して実質可処分所得の伸びは前月比0.1%増にとどまったほか、貯蓄率も4.6%と2025年に入って最も低い水準となっている(添付資料表1参照)。
個人消費支出は前月比でみた場合、名目ベースで0.6%増、実質ベースで0.3%増と引き続き堅調な伸びを維持した。実質ベースの内訳では、財(前月比0.7%増、寄与度0.2ポイント)が前月に続き支出全体の増加分の大半を占め、中でも学生が新生活を迎えるにあたって必要となるコンピュータ関連や靴、カーテンなどの消費が堅調だった。これらの商品は、前月に比べて値下がりしているものも多くみられ、州によっては「学校に帰ろう」と銘打った売上税減免期間(タックスホリデー)を設けていることもあり、購入時期を見計らっていた消費者が小売店の値引きに応じて購入を決断したことが伸びにつながった可能性がある。サービス(0.2%増、寄与度0.1ポイント)はレクリエーションサービスが好調だったが、基本的に伸びは控えめだった(添付資料表2参照)。
物価関連では、PCEデフレーターは前年同月比2.7%増(前月2.6%増)、前月比では0.3%増(前月0.2%増)、変動が大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数は前年同月比2.9%増(前月2.9%増)、前月比は0.2%増(前月0.2%増)でいずれも市場予想と一致した(添付資料表3参照)。また、米国連邦準備制度理事会(FRB)が参照するコア指数の3カ月前比、6カ月前比は、それぞれ2.9%増(前月3.0%増)、2.5%増(前月3.0%増)だった。
今月見られたように、小売店は消費者への価格転嫁を抑制しており、これが新学期商戦における消費の腰折れを防いだかたちだが、これによる企業収益へのしわ寄せは着実にみられ始めている。9月の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見(2025年9月18日記事参照)では、こうした価格転嫁の抑制が労働市場に影響を及ぼし始めている可能性も指摘されているところだ。株式市場の堅調さにより、所得上位10%層の消費は今後も堅調に推移することが期待されるものの、それ以外の層の消費については、消費者への価格転嫁の進展、労働市場の減速のいずれによる影響も考えられ、消費の先行きはいまだ予断を許さない。
(加藤翔一)
(米国)
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