ベルリンでの放火による大規模停電、犯行グループは防衛産業への抗議示唆
(ドイツ)
調査部欧州課
2025年09月22日
ドイツのベルリン南東部のトレプトウ=ケーペニック区で、9月9~11日に大規模停電が発生し、約5万の世帯・企業が影響を受けた。停電は約60時間にわたり、ベルリンで発生した停電としては、第2次世界大戦以降で最長となった(ドイツ公共放送ARD「ターゲスシャウ」9月12日)。原因は同区内の2基の送電鉄塔への放火で、現地メディアのベルリン・ブランデンブルク公共放送局「rbb24 INFORADIO」(9月11日付)は捜査当局の見立てとして、国内の極左過激派による犯行と報じている。
事件に関与しているとみられるグループが公開した犯行声明によると、動機はドイツの防衛力強化に向けた動きや防衛産業に対する抗議という。同区内に位置する国内最大規模のアドラースホーフ科学技術パーク内のIT、ロボティクス、バイオ・ナノテクノロジー、宇宙、人工知能(AI)、安全保障・防衛産業分野の企業や研究機関への妨害が目的とされている。
2024年2月にも極左グループが東部ブランデンブルク州で米国の電気自動車(EV)メーカーのテスラの工場への抗議を目的に、近隣の送電設備に放火する事件が発生しており(2024年3月18日記事参照)、今回の事件との類似性が指摘されている。
アドラースホーフ科学技術パークの運営を担うWISTAによると、パーク内の企業や研究機関が影響を受け、損害は数千万~数億ユーロ規模に達すると発表した。現地主要紙「ツァイト」(9月12日)はWISTAの関係者の話として、一部の企業は完全再開まで1~2週間を要すると報じている。WISTAは、パーク内に所在して食品安全や公衆衛生などを担うベルリン=ブランデンブルク州立研究所(LLBB)では大量のサンプル類や化学薬品、標準物質などを破棄せざるを得なくなるなどの被害を被ったとした。そのほか、交通の混乱や通信障害の発生、一部学校では休校になるなど、広範囲への影響が報じられた。
進む防衛力整備、防衛産業も拡大の兆し
ロシアによるウクライナ侵攻などを受けて、ドイツは防衛力の再構築・強化を進めている。2025年3月に上下両院は財政規律を緩和する基本法の改正案を可決し、GDP比1%を超える防衛費が債務ブレーキ(注)の適用対象外となり、借り入れによって賄えるようになった(2025年3月24日記事参照)。2025年度予算の防衛費は特別基金を含め、過去最大の863億7,000万ユーロが支出される予定だ。こうした動きに伴い、従来の防衛関連企業が業績を伸ばしているほか、異業種やスタートアップによる防衛産業への注目も高まりつつある。
(注)連邦政府の債務をGDPの最大0.35%に抑えるという財政規律ルール。
(近藤慶太郎)
(ドイツ)
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