2026年起工に向け「シリコン・アイランド」開発が進展、半導体エコシステム強化へ
(マレーシア)
クアラルンプール発
2025年08月15日
マレーシアのペナン島南海岸沖では、2023年9月から人工島「シリコン・アイランド(SI)」の開発が進められている(2024年5月8日記事参照)。ジェトロは8月6日、建設を手掛けるシリコン・アイランド・デベロップメント(SID)に直近の進捗状況を聞いた。
2026年に工場の建設開始目指す
ペナン島は「東洋のシリコンバレー」と呼ばれ、半導体エコシステムが成熟している。かつては英国の自由貿易港だったが、1969年にその地位を失った後、停滞した経済を立て直すためにマングローブ林の開発を始め、1972年にはフリーゾーンを設置し、電気電子大手8社(注)を誘致した。埋め立ては州にとって目新しい事業ではないものの、島内の土地不足や渋滞などの課題に対応するため、10年ほど前に人工島を建設する構想が浮上したのがSIの起源だ。
SIの総面積2,300エーカー(約931ヘクタール)のうち、ハイテク企業の誘致を想定する「グリーン技術パーク」が700エーカーを占め、ペナン島南部にあるバヤンレパス工業団地(1,400エーカー)の半分に相当する。第1フェーズとして2025年に100エーカーの造成工事を行い、同年末に入居申請の受け付けを開始する。2026年には工場建設に着手し、2027年までの稼働を目指す。ペナン島とSIを結ぶ2つの橋のうち、最初の1つは2027年中に完成させるほか、ペナン本島と接続するペナン軽便鉄道(LRT)は2031年までに敷設する計画だ。
SIは、ペナン国際空港(海抜3メートル)より高い3~4.8メートル地点に造成し、海面上昇にも耐えられる。地域の伝統産業が漁業であることから、漁業への影響も含めた環境アセスメントに時間を掛け、漁業の保全にも努める。
建設用トラックが行き来する作業橋、左手がペナン本島側、周辺には漁船も(ジェトロ撮影)
半導体産業の勢い取り込みに期待
プロジェクト副ダイレクターのタン・ジュンジン氏は、半導体産業を中心としたハイテク分野の誘致を見込んでいる。8月現在、工業や不動産業など15社がSIへの入居に関心を寄せており、中でも工業分野は全て半導体関連企業という。土地不足を背景に、一般にペナン州の工業用地やSIでは土地価格は全国平均よりも高額だ。それでも、ペナン州の成熟した産業エコシステムは高付加価値半導体企業を引きつけているとタン氏は指摘する。半導体産業にとって、成熟したエコシステムは不可欠だ。発展した裾野や空港といった既存エコシステムへの近接性は、ペナン島が魅力的な投資先である続けている理由だ。直近では半導体のダウンサイクル局面に米国の関税政策も重なり、企業は投資判断に関して様子見の姿勢を強めているが、2026年までにアップサイクルが再来し、土地需要が再燃することにタン氏は期待を示した。「大手半導体企業がシェアード・サービス・センターをSIに移転するのも選択肢だ」と語った。SIでは、空港まで3キロという立地上の優位性に加え、借地権が99年と、ペナン州の他の工業用地(60年)より長い点もメリットだという。
SIにはインキュベーショ施設や教育機関なども誘致して開発するほか、生活住環境も整備し、富裕層の居住地としても売り出したい考えだ。
造成中のシリコン・アイランド、多くのクレーンが作業中(ジェトロ撮影)
(注)マレーシア政府が「8人の侍」と称する、日立(現・ルネサス)など8社。ジェトロ「マレーシアの電気・電子産業-半導体産業を中心に-(1.5MB)」P2参照。
(吾郷伊都子、山口あづ希)
(マレーシア)
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