英最大のバイオエタノール工場閉鎖へ、米産品への関税引き下げが影響
(英国、米国)
ロンドン発
2025年08月20日
英国の食品や衣類の小売り大手アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(ABF)は8月15日、イングランド北東部ハル近郊にある同国最大のバイオエタノール製造工場ビバーゴ(Vivergo)を8月31日までに閉鎖すると発表した。
5月8日に合意に至った米英の関税協定(2025年5月9日記事参照)により、英国は従来19%の関税を課していた米国産エタノールに対し、14億リットルまで無税とする関税割当制度(TRQ)を導入するとしていた(注1)。これを受け、ABFは5月11日、無税枠は英国全体のエタノール市場の規模に相当することから、米国産が優勢となり、事業の継続は不可能になったと発表していた。
ABFは6月26日から英国政府との間で、ビバーゴへの支援を協議し、短期的な財務支援や持続可能な収益構造を実現するための長期的な規制措置がなければ、赤字は避けられないと訴えていた。しかし、政府が応じなかったため、同社は既存の損失や株主利益を考慮し、閉鎖手続きに入る決定をした。
ビバーゴは地元農家から飼料用小麦を調達し、6割はバイオエタノール、4割は動物飼料に加工している。現地メディアによると、英国のエタノール産業は「かねてトウモロコシ由来の安価な米国産エタノールとの競争に直面してきた上、2022年以降は廃棄物由来エタノールへの優遇措置(注2)が米国産に追い風となってきた」という。ビバーゴは約160人を雇用、関連する小麦農家などサプライチェーン全体では4,000人以上の職を支えており、閉鎖による影響が懸念される(8月15日付「フィナンシャル・タイムズ」)。
英国第2のバイオエタノール工場をイングランド北東部レッドカーで運営するドイツ資本のエンサス(Ensus)も、経営の危機に直面し、支援を求めて政府と協議を行っている(8月16日付「タイムズ」)。
(注1)米英関税協定に関する一般条項の1.関税措置(b)に基づく。
(注2)英国の再生可能運輸燃料義務制度(RTFO)では、再生可能運輸燃料証書(RTFC)が燃料1リットルについて基本は1RTFC発行されるが、廃棄物・残りかす由来のバイオ燃料には2RTFC発行されるインセンティブ(ダブルカウント)が設けられている。
(森詩織)
(英国、米国)
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