トランプ米政権、インテルに約89億ドルを投資し、筆頭株主へ
(米国)
サンフランシスコ発
2025年08月27日
米国の半導体大手インテル(本社:カリフォルニア州サンタクララ)は8月22日、トランプ政権との間で総額約89億ドルの投資合意を締結したと発表した。この合意は、バイデン前政権下で制定されたCHIPSプラス法に基づく未支給の補助金57億ドルと、「セキュア・エンクレーブ(Secure Enclave)プログラム(注)」で支給が予定されていた補助金32億ドルを原資とするものだ。ドナルド・トランプ大統領も同日、自身のSNSで本件を公表した。
米国証券取引委員会(SEC)に提出された臨時報告書によると、トランプ政権は、同社株式の9.9%に相当する4億3,330万株を、1株あたり20.47ドルと市場価格より割安な価格で取得し、筆頭株主となる。政府保有株式は、「パッシブ投資」と位置付けられ、取締役会への参加や経営への関与は行わず、株主投票では原則としてインテルの取締役会の方針に従うと明記されている。さらに、インテルがファウンドリー事業の過半数を失った場合、政府は追加で5%の株式を取得できるワラント(権利)を5年間保有する。これにより、インテルの国内製造能力維持へのインセンティブが強化される。
インテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO)は「米国唯一の先端ロジック半導体メーカーとして、国家の技術的主権に貢献する」と述べ、トランプ政権の支援に謝意を示した。米国商務省のハワード・ラトニック長官も「米国が世界最先端の半導体を生産する体制を確固たるものにする」と強調した。マイクロソフト、デルなどの米国IT大手企業も本合意を歓迎し、インテルとの連携を通じて米国の技術・製造リーダーシップ強化に貢献する姿勢を示している。なお、インテルは8月18日に、ソフトバンクグループから20億ドルの出資を受けており、今回の発表はこれに続く動きとなる(2025年8月25日記事参照)。
米国政府が、大企業株式を所有することは極めてまれだ。過去の例は、戦時中の防衛関連産業への介入、1970年代後半のクライスラー救済、2008年から2009年の金融危機時のゼネラルモーターズ(GM)、エー・アイ・ジー(AIG)や銀行などの株式の一時保有といった例に限られる。政府の補助金を株式に転換するという手法は、従来の支援策とは一線を画すものであり、米国の産業政策における転換点として注目を集めている。
(注)米国・国防総省と商務省が共同で推進する半導体製造支援プログラム。
(芦崎暢)
(米国)
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